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心を可視化する~『パリの記憶(Revoir Paris)』(ネタバレなし)

日仏学院の「映画批評月間」で『パリの記憶』(Revoir Paris)を見てきました。本公開されていない(公開も未定)なので、重要なネタバレなしで。

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ロシア語の通訳をしているミア(ヴィルジニー・エフィラ)はカフェでテロの襲撃に巻き込まれ、一命をとりとめる。三か月が過ぎ、体は少しずつ回復していたが、仕事にも復帰できず、パートナーとの関係もうまくいっていない。事件の記憶がすっぽりないことが、彼女の心を重くし、やがて記憶を取り戻そうとするが...。

2015年11月13日に起きたパリ同時多発テロ事件の物語。あくまでフィクションではあるが、最初の方に襲撃のリアルな様子、生存者の実際の体験やコメントが反映されているであろう脚本なので、見る時には注意した方がよい。(これだけは注意喚起としてネタバレします)

ミアがどのように記憶をたどり、自分と向き合うかがメインなので、基本的には静かに見てはいられる。ミア目線なので、ミアが分からないことは観客も分からない。一緒に謎解きをしておくような構成。ミアの心は見えないが、映画という魔法のフィルターで可視化されていくような体験だった。

主演のヴィルジニー・エフィラが台詞少ないながらも、知的で、しかし弱さも強さも併せ持つ情感豊かな人間像を静かな演技で魅せる。『ベネデッタ』の激しい炎のような姿と違いすぎてびっくりした。

出演シーンは多くはないが、レオス・カラックスの娘であるナスーチャ・ゴルベワの佇まいと静かな抑えた演技が素晴らしい。カラックスの作品には出てるとはいえ、俳優としては初めての演技だと思うが、かなりうまい。カメラの前で俳優がすべきことをよく分かっている。

ブノワ・マジメルは相変わらずフェロモンダダもれで(これだけでネタバレか?)、しかしハンサムだがちょっと崩れた愛嬌のある雰囲気は、全体的に緊張感のあるストーリーに時折緩みを与えてくれて心地よい。相変わらずまつ毛にマッチ載りそう。

パリのテロ多発事件は、当時事件にあやうく巻き込まれそうになった日本人のブログとかを見てたのでよく覚えている。その後フランスに転勤の話があったりもしたので(色々あってなくなった)ちょっと調べたりしていた。

映画を見て、パリ市民に大きな傷となっているのを感じた。時が少し過ぎ、映画として表現できるようになったということなのだろうか。果たしてその是非は分からないのだが、一人の人間の心に焦点を当てた表現は、事件そのものを映画にするよりももっと胸に迫った。

日本だとなかなかこういう表現の映画が少ない気がする。どうしても作家性を打ち出すとマイナー(=興収が少ない)になってしまうからなのかもしれないが、フランス映画を見ていると、かなり表現の幅が広いので観客の受容が広かったり、芸術へのサポートがしっかりしてるんだなと思ってしまう。いわゆる売れ線の邦画を批判したくはないが、分かりやすさと観客を信頼している作品作りを同時にできているとは言い難いので...。

 

11月10日にはやはりこの事件を描いた『ぼくは君たちを憎まないことにした』も公開される。こちらも見たい。

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