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『美しき仕事』クレール・ドゥニ監督アフタートーク@横浜ブルグ13シアター1(横浜フランス映画祭2024)

クレール・ドゥニ監督アフタートーク、というかティーチイン、Q&Aの濃い内容。

壇上の準備がちょうど終わると同時にドゥニ監督早速やってくる。まだ司会も通訳さんも来ていないが荷物をドサッと置いたり、何やら早口で話している。パワーみなぎる感じが伝わる。

冒頭あいさつを促され「意地悪なのと優しいコメントどっちがいい?」とニヤリ。いきなりだったので観客も反応に困るが、司会や通訳さんもちょっと戸惑う。

で結局「時差ボケが大変なの!こんな映画だけどどうだった?お休みの日よね、よい日曜日になったといいけど」というかなりフランクな出だし。少しテンション高めなのは時差ボケの影響?

アフトクはQ&Aにすぐ入る形式だが、まずは司会の方より。

司会:今回4Kレストア版はクレール・ドゥニ監督と撮影のアニエス・ゴダールで監修されたとのことだが、どのようだったか。

クレール・ドゥ二監督(以下監督):修復をどのようにするかということを考えた時に、実際最初に今作を作った時の感動を思い出すことにした。35㎜フィルムで撮ったジブチの風景は当時はすばらしく美しかったが、元のはプリントが古くなってしまった。ジブチの光を再現したいと思った。

最初にジブチを見た時に撮影のアニエス・ゴダールが感動して「ここは世界の始まりで、世界の終りのようだ」と言ったくらい美しい。

(※通訳の方は「地球の始まり/終り」と訳していたのですが、監督が≪...fin du monde≫と言っていたのが聞こえたので「世界」とさせてもらいました。「始まり」の方のフランス語は聞き取れなかったのでそっちはもしかしたら≪le début de la terre≫と言っていたのかも?)

ここから観客とのQ&A。

(作品のネタバレに触れる箇所がありますので、これから鑑賞される方はご注意ください)

Q:最後の踊るシーンの意味を教えてほしい。

監督:踊るのはシナリオではジブチを出る前のシーン。ガルーはフランスに戻り、存在意義を失い自殺するというラストだった。しかしそれだと悲しいと思い、編集段階でダンスを最後に入れた。ダンスの意味は、神へのダンス、死のダンス。死の前に素晴らしいものを残すという意味。

Q:ガルーの夢(?)のシーンで現地の女が石を投げるシーンがあるが、その演出はどのような経緯か。

監督:ジブチは小さい国で、土壌的に農業ができないため牧畜をしている。女が山羊を飼い働いている。彼女たちは軍が通ると石を投げていた。それは植民地意識への反抗だった。二人の現地女性が石を投げるのは演出だが、いつもやっているので自然にできた。

Q:ドゥ二・ラヴァンの印象について。

監督:今作は15人の俳優が出演してて、うち13人は兵士*1。その中でミシェル・シュポールが司令官役で出演している。彼はゴダールの二作目の映画*2に出演してて、一度俳優をやめてまた出てきた人。ラヴァンはミシェルが好きな俳優で、仕事がしたいと望んでいたので共演を喜んでいた。

ラヴァンには特に指示は出していない。役作りや演技の指示はない。ラヴァンはとても活発な人で、好奇心があり、撮影中はひとりでジブチを見て回っていた。

Q:音楽がとてもよい。特に兵士の訓練のシーンでの音楽がよかったが演出はどのように。

監督:当初のシナリオでは、原作の『ビリー・バッド*3』を完全に再現しないとしていた。当時原作のオペラのレコードを聴いた。原作は水夫の話なのでマストの作業にオペラの音を合わせている。聴いた時も音の演出は決めていなかった。実際にジブチに行き、部隊の訓練のシーンの撮影でオペラの音楽をかけたら、熱風で音が途切れるのがとても感動的だったので音楽を合わせる演出にした。

訓練のシーンは本当の訓練の動きだが、振付師によるもの。振付師に外国人部隊出身の人がいたため、動きがエレガントになったのではないか。

(ここで外国人部隊について説明)

監督:フランス外国人部隊はフランスの軍の部隊だが、外国人で構成される。皆5年から10年勤めて辞める。そうするとフランスの国籍とパスポートがもらえる。自国になんらかの理由で戻れない人が、二度目のチャンスをもらえる機会である。

Q:本作は2022年度発表されたSight & Sound誌「史上最高の映画」*4の7位にランクインした*5。本作は前回10年前のランキングは78位だった。このことから女性監督映画が今評価されていると思う。ジェーン・カンピオン監督の『ピアノ・レッスン』も現在、日本で再公開されている。公開から時を経て女性監督作品が評価を得た事をどう思うか。

監督:Sight & Sound?ランキング?何?

(監督よく分からなかったようでしたが、ポスターの惹句にそれが記されているのを説明され把握する)。

ジェーン・カンピオン監督がなんですって?

(ここも女性監督の例として名前が挙がった経緯がつかめなかったようでしばし間があるが、丁寧に通訳やスタッフに質問内容を確認する。)

映画というのは機械で動き、フィルムは化学で処理されるもの。映画は男の世界で、男の仕事だった。けれど女性が少しずつ社会進出して、最初はカメラで写真を撮り、弁護士になり、バスの運転手になり、少しずつ社会が動き変化していった。

たまたま最近女性が増えたわけではない。

フランスは第二次大戦後、映画作りに支援金が出てCNC(国立映画映像センター)が設立された(1946年)。そしてシナリオを書くとお金がもらえるシステムができて、それだと女性が参加しやすい、映画を作りやすい土壌ができた。

フランスでも最近マティ・ディオップという素晴らしい女性監督が、パルムドール*6を受賞したり活躍している。多くの国で女性監督は増えた。

(※下線部は監督が一番言いたかったのでは!と思い。ここの質問と答え思うところあったので後述)

Q:兵士の肉体がとても美しかった。人間の身体への賛歌を感じた。

監督:長い事、芸術は女性の体を描いてきたから、男性の体をこのように描いてもいいと思った(ちょっといたずらな笑顔)。

Q&A感想

フランス映画祭という場で、観客もマニアックな方も多いせいか、具体的な内容についてよりは映像などについての質問が多かったような。私は咀嚼するのに時間がかかって、皆これ理解できたのすごい!と思ってました。

なんとなくですが、女性はドゥニ・ラヴァンに思い入れがある方が多いようで、ラヴァンについての質問はほぼ女性でした(ダンスについての質問は男性)。かといってカラックスの名前を出すのも失礼かしらという配慮からか、皆さんほんとはもっといろいろ聞きたそうな感じで。でもそこは監督もうっすら汲み取ってるようでした。多分散々ラヴァンのファンに質問されてきたのであろう。

ところで最後から二つ目の「女性監督再評価」云々の質問ですが、男性からでした。この質問出た時にわたくし「わァ...わァ」ってちいかわになってちょっとドキドキでしたよ。監督がどう思ってるか気になって気になって。しかし監督の懇切丁寧な説明!そしてちょっぴり皮肉めいた表現も交えての素晴らしい返し!

質問者も悪気はないし(悪気がないからといって悪くないわけではないが)、聞きたい気持ちも分からんでもないし、そこそこ映画好きゆえの質問なのは分かる。私のバイアスもめちゃくちゃあると思うんだが、日本の男性って女性の歴史についてほんと無頓着なんだな、この人たちの世界で女性はずっと透明人間で最近急に姿を現したんだな、とちょっと意地悪な見方をしてしまうような質問でした。でも監督から素晴らしい言葉を聞けたのだから、これを機に視点を変えて見てもらえれば。マティ・ディオップの名前が監督から聞けたの嬉しかったな。めっちゃいいんよー!私も大好きな作家ですよドゥニ監督!

そういや、質問でランキング1位のシャンタル・アケルマン監督の名前じゃなくて、なぜかジェーン・カンピオン監督の名前を出したのは果たして気を遣ったのかしらんけど。カンピオン監督も素晴らしい経歴だけど、アケルマン監督はフランコフォンの国のベルギー出身でフランスと縁もあるし、フェミニストでもあるし、「女性監督」という質問をするに最適だったと思うのだが。

それにしても、そういう質問は、できればシネマ・ヴェーラあたりのイベントで蓮〇重彦御大あたりににしてください(怖いので伏字にする)。

あと監督、まあそこそこ不愉快だとは思ってたと思う。映画のランキングの件も知らなかったようだし、いまさら女性云々言われるの興味ないのでは。女性差別は散々辛苦を味わってきただろうしもう怒る気もなかったとは思うけど、だからこそこの質問はもう少し気を遣ってもらえたらとも思うが、ほんと返しがよかったので聞いてよかったというのはある。

ちなみに、女性の仕事について監督が「カメラマン」「弁護士」「バスの運転手」を挙げていました。フランス語は名詞に女性形と男性形があるのですが、近年まで「職業に関する名詞はすべて男性形」でした。なぜなら昔は男しか仕事につけなかったから!

うわーめっちゃ理不尽!(ってもしや男性はこの理不尽さに気づかないのだろうか。それはそれで恐ろしい。)

最近は見直されて、両方の性で表記されるように。その中で「弁護士」<avocate(女)/avocat(男)*7>はおそらく女性が社会進出した際に早々に参加しやすい職業の代表格だったのでは。それもあって監督は例として挙げたのではと推測。カメラマン<photographe>については名詞にもともとeがついてるので区別はないよう。運転士については<conductrice(女)/conducteur(男)*8>。この辺の話はフェミニズムの話でもあり、言語学的な話でもあり。あ、医者<médecin>は-eを語尾につけると「医学」の意味になるので、区別をつけられないというのもあったり。

このように、言語においてさえ女性がその存在や権利を主張してきた長い歴史があるので、監督が粘り強くお話しされたのはほんとに素晴らしすぎました。カッコいい!

質問者の方には期待しとった答えと違かったかもしれんけど、フランスの女性がいろいろ戦ってきた歴史は10年やそこらじゃないんよ…ぶちやねこい話じゃけど『シモーヌ フランスに最も愛された政治家』とか見たらよう分かるけん、よう見んさい(突然のインチキ広島弁)。

サイン会

終わった後にサイン会。入場時にくじを引いて当たるとサイン会に参加できるのですが、運よく当たりくじ。てっきりかなりの人数が参加できんじゃないのと思ってたら10分の1くらいでした。おおおお!めっちゃ引きが強いぜ!

サイン会はサインのシートは提供され、名前も書いてもらいたい場合はメモなど準備してくださいとのアナウンス。スマホのテキストを見せて書いてもらいました。

少しお話もできるくらいのゆるい感じだったので、思い切ってフランス語で簡単な挨拶とメッセージを。

≪Le film d'aujourdhui est magnifique, mon préféré est <J'ai pas sommeil>≫

(今日の映画も素晴らしかった。私のお気に入りの映画は『パリ、18区、夜』です)

と言った時に、J'ai pas と言ったところで何を言うか察してくださって、sommeil を一緒に言ってくださって声が重なったのがほんと感動でした。惚れてまうやろ...。すき!

ところで≪J’ai pas sommeil ≫とは「私は眠くない」なので、もしや時差ボケの監督のお気持ちに重なったのか、はたまた逆だったのか。監督はその後渋谷に移動しトークショー、次の日は早朝フライトで帰国という大忙しスケジュールだった模様。

監督ありがとうございましたー!本公開も行きたい、そして日仏学院のドゥニ監督特集行けなかったので、どっかで特集上映してほしい!

 

*1:13人が兵士、と言っていたが現役の兵士なのか、あるいは兵役経験があるという意味だったのか、詳細は不明。

*2:『小さな兵隊(Le Petit Soldat)』 1960年制作1963年公開

*3:ハーマン・メルビルの小説

*4:英国映画協会(BFI)の発行する映画雑誌、サイト&サウンド・マガジン Sight&Sound Magazine が1952年から10年間隔 で毎回、世界の映画批評家たちへのアンケート調査により選定・改定している史上最高の映画トップ10ランキング。2022年の1位はシャンタル・アケルマン監督『ジャンヌ・ディエルマン ブリュッセル1080、コメルス河畔通り23番地』

*5:The Sight and Sound Greatest Films of All Time 2022 - Wikipedia

*6:厳密にはパルムドールではなく2019年のカンヌ国際映画祭グランプリ(最高賞パルムドールに次ぐ賞)を「アトランティック」で受賞。先日、第74回ベルリン国際映画祭金熊賞を「Dahomey」で受賞。

*7:フランス語は語尾にeをつけると女性形に変化する規則がある

*8:女性形にする時に語尾に-eをつけるだけのと-riceにするのがあり。