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はえぎわ×さい芸『マクベス』アフタートーク @芸劇シアターイースト

2月22日(木)マチネ公演の後のアフタートーク

さい芸の高木さんが司会で、翻訳家の松岡和子先生と演出のノゾエ征爾さんのトーク

メモ書き起こしなので、細かいニュアンスなどの違いあるかもしれません。明らかな間違いありましたらコメントでご指摘いただければ幸いです。

上演台本について

松岡さん(以下松):トゥモロースピーチは今回変えている。1996年(初版の年・さい芸初演時)では「明日も、明日も、また明日も、」*1だが、今回2023年公演では「明日へ、明日へ、また明日へ」にした。

「太鼓だ!だだだん!マクベスだ。」*2カルメンに合わせてたのが良かった。原文でA drum, a drum! Macbeth doth come.>の雰囲気を出したい訳だったのでうれしい

ノゾエさん(以下ノ):高校生に向けた演出にするため、馴染みない層にも、言葉やフレーズを繰り返して刻み付ける上演台本にした。音として気持ちいいことを目指した。しかしウザくないように気を付けた。シェイクスピアに馴染みある人にも楽しんでもらえたら。

:笑いをいれる演出はどのように?

:笑いを入れようとしてはいない。笑わそうとすると面白くない。人を多面的に描くということを意識。俳優から生まれてくるおかしみが笑いになった。

シェイクスピアの作品は、初めから終わりまで深刻なのはない。笑いを取るのはシェイクスピア劇の側面。ロンドンのグローブ座は観客席が立ち見で、舞台と距離が近い。「ハムレット」などでも客を巻き込んだ形。大衆向けである。逆にプライベートシアターの劇場などは「テンペスト」など仕掛けがあるちょっと上流な雰囲気の演出をやる。

:ダンカン王の丁寧語(「側近のみなさん」「あそうなの」など)は親しみやすいキャラクター。日本の皇族のイメージ。

:2022年の試演会から大きくは変えていない。(試演会の苦労など)

シェイクスピアの大作を自分が演出すること、上演台本を作ることはとても大変だった。何も分からない状態で、松岡さんに助けてもらった。翻訳者は作家であり創作者で素晴らしい。脚色する自分は敬意を持っている。今回は松岡さんがいたのでできた。

音楽について

:音楽や歌はいい演出。マクベス夫人の歌はどういう段階で入れることになったのか。

マクベス夫人の独白パートの歌は、平常心でない状態を歌にしてみたいと思った。台詞に合わせて垂れ幕が落ちてくる演出は、台詞のいいところでリズムが切れなくて難しかった。

:マクダフ夫人のシーンで流れる歌がよい。

:「教訓1」はコロナ禍で女優の杏さんがYouTubeで弾き語りしたのを見て。

:まだ見られるなら見てみたい。

ラストシーン

松:マクベスの首が目をぎょろっとさせて、安堵の表情、白い波の中で眠る演出は、蜷川マクベスの胎児のイメージと重なった。眠りたい、という台詞は原作にはない。

演出について

:椅子は最初なかった。さい芸での試演会は素舞台。その後9台の平台を使っていた。椅子を細分化した演出へと変化した。チェスを模しているのは、人間が作ったルールや規律を壊していく。不自由さや思うようにいかないイメージ。

:椅子をつかった「ドン!」という音が印象的。椅子は社会的地位=chairという意味もある。積み重ね崩せるもの。

:さい芸のスタッフさんからネクストの「カリギュラ」のセットの椅子もあったらよいかもと提案され準備した

「両義性、曖昧な言い回し(Equivocation)」について

:「女から生まれた者は誰一人マクベスを倒せはしない」*3という魔女の予言があって、最後マクダフが「母の腹を破って出てきた」*4のでマクベスを殺せる、というくだりが分かりづらい。ゲネプロまでどうするか迷った。

:マクダフは帝王切開で生まれたというのは、通常の出産ではないという意味がある。当時は帝王切開は母親の死を意味するので、マクダフは「女」ではなく「死体」から生まれたという解釈になる。『ハムレット』のオフィーリアも死んでしまうと墓堀りの台詞で「もと女」*5と呼ばれる。死体は女ではないという前提がある。しかしそういう説明をするわけにもいかない。ややこしいからそのままにした。どういうこと?という謎のままでいい。

:「きれいは汚い、汚いはきれい」*6に代表されるように、この作品は「どうとも取れる言葉の使い方」がキーワードになっている。これは「equivocation」という。当時ジェームズ1世の暗殺計画(火薬陰謀事件)*7があった。その時の裁判の陳述がどうとでも取れる言い方で、社会問題になった。それを反映しているので、「女から生まれた~」の予言もどうとでも取れるままでよいと思う。

その他

松:バンクォーの息子を絵にして松明にくくって二役にしたのや、きつねのえりまきの使い方などよい。場をゆるめる演出。レイディマクベスの迫力があって、マクベスが追い詰められていた。

 

(感想メモ)

  • 上演台本のお話は、昨今の原作改変の件を踏まえてお話されてたのかな、と思いました。上演台本はノゾエさんやワークショップの俳優の個性が反映されているとも感じましたが、松岡先生の翻訳あってこそ、そこを大きく逸脱しないが自由で豊かなテキレジだったと思います。
  • 火薬陰謀事件については他のシェイクスピア作品にも多く出てくる。
  • マクダフの出生についてのくだり(帝王切開、死体は女ではない等々)はいろいろなところでお話されてるのですが、文献もあったか(要調査)。

*1:ちくま文庫 松岡和子訳『マクベス』P.168

*2:ちくま文庫 松岡和子訳『マクベス』P.17-18

*3:ちくま文庫 松岡和子訳『マクベス』P.119

*4:ちくま文庫 松岡和子訳『マクベス』P.177

*5:ちくま文庫 松岡和子訳『ハムレット』P.232-233

*6:ちくま文庫 松岡和子訳『マクベス』P.10

*7:火薬陰謀事件 - Wikipedia