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配信観劇その16『マクベス (Macbeth)』(Stratford Festival, 2017)

またまたマクベス。今回はストラトフォード・フェス版。

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無料配信は終了(オンデマンドで見られる)。今は『テンペスト』『アテネのタイモン』『恋の骨折り損』を配信中。

グローブ座は中学生向けの演出だったが、こちらは戯曲そのまま大人向け。どう大人向けか?ってあらすじにそれほど違いはない。が、全体の雰囲気も役の解釈も印象ががらりと変わる。

グローブ座の感想記事👉配信観劇その15『マクベス (Macbeth)』(グローブ座、2020) - je suis dans la vie

続けて別のプロダクションを見ると、演出でこうも雰囲気変わるのだなあ、と。シェイクスピアは本当に演出しがいがあるだろう。大変だとは思うけれど。

このマクベスはスタンダードだが、雰囲気はおどろおどろしく。三人の魔女も不気味。うち一人が白目のカラコン入れてて、薄暗がりのライトにギラギラ光って怖い。

そう、照明が終始暗めなので、配信だと見にくいとこがところどころ。蝋燭の灯りのような感じで、オールドなシェイクスピア劇場の雰囲気があって実際に見たらもっと雰囲気あるだろうな。

マクベス役のイアン・レイクという俳優さん、ほどよく鍛えた筋肉でセクシーな肉体派マクベス。夫人もグラマラスな女性。この2人のシーンがとってもエロくて。

戦場から戻ってきたマクベスと夫人は熱い抱擁&接吻。さらに、マクベスが上半身裸になって夫人が汚れた体を拭いてやるんですが、夫人がその厚い胸板と割れた腹筋をなめるように見つめてゆっくりと指を這わせて…。この先どうなるのってドキドキさせる。短いシーンで、二人の絆をセクシーな肉体を使って、否応なしにはっきり見せるのは効果的だったと思う。二人が心も体も密接につながっている夫婦だという話のベースがここでできる。

仲が良くて夫唱婦随とか、夫人を悪女に演出するのもメジャーだけど、単純に若くて情熱的な夫婦っていう表現は視覚的にすっと入ってくる。

グローブ座のマクベスは父親になるという前提があったので、野心の中に家父長的な要素も多分にあった。その分、罪に悩み、迷う、繊細な優しさの残るマクベスに見えた。

その後も別なシーンで上半身裸を披露しており、肉体的な男性らしさを強調する。王になるという野心は、夫人に男らしさを見せる事であり、自分の男としての強さを証明したい自己顕示欲の強いマクベスなのかなと思った。

二人の強い絆は、夫人の死を知ったマクベスの情感あるセリフでも表現されている。ここでマクベスが最後の覚悟を決めた感じもした。

夫人も野心家なのだが、夫を男として盛り立てたい意志の強いキャラクター。かといって開き直りきれないので、罪に苦しみ狂う。

二人とも自分の意思で動きながらも、結局運命にはあらがえず翻弄される心の揺れ動きが、わりと丁寧に表現できていたのでは。

ラストにマルコム王子を囲んで大団円な中に、白目の魔女がふっと振り返って暗転。ホラーではないけど、ところどころゾッとする演出が多く、マクベスの悪事が運命に仕組まれたものという印象を持たせる演出。

前も思ったけど、ストラトフォードフェスのシェイクスピアは、イギリスの公演のに比べて発音が聞き取りやすい。セリフ回しは弱強五歩格なんだけど、カナダ人の俳優さんが多いからアメリカの発音に近い気がする。

余談。Twitterで"Hail!"の訳で面白いのがあると。

こちらは光文社古典新訳文庫安西徹雄訳だそう。実際たくさんHailが出てきたので、もう脳内でその翻訳になってしまいそうでした。

他の訳だとどうなってるのか、全部調べたくなる。