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配信観劇その15『マクベス (Macbeth)』(グローブ座、2020)

グローブ座の配信、今回はマクベス

 

2020年3月初旬の上演だそう。今年イギリスのGCSE(中等教育修了試験)の英語試験でマクベスが出題されるので、中学校が再開されるまで無料配信なんだそうです。

 

子供向けということで、90分に短縮されている。

観客も中学生ばかりらしく、開演前はザワザワと騒がしい。雨が降っているのか、皆フードをかぶって少し寒そうに身を寄せている。野外ステージで立ち見、フジロックの開演前みたいだなと思った。

客の中に女の子が一人いて、ずいぶん落ち着きがないなと思ったら、魔女の一人でした。彼女が舞台に上がりスタート。他の魔女も小柄な少女のようなルックス。

他の出演者にも幼いルックスをあえて演じてるキャラがいて、子供たちに親近感をもたせて興味を持ってもらう演出らしい。マルコム王子役はアジア系でメガネ、七三分け、短パン、ハイソックス姿。ちょっとうらなりな優等生な感じ。ティーン向けアメリカ映画に出てくる、パソコンできる頭のいいキャラみたいな。

マクベスや夫人、ダンカン王、マクダフ、バンクォーなんかは原作と年齢のズレはないので、「大人」のキャラクターと「子供」のキャラクターを分けている感じもした。大人のマクベスが子供の魔女に翻弄されたり、大人のマクダフが子供のマルコムにちょいキレしたり。

演出がいろいろ見た目にも分かりやすい。衣装はスコットランドの青と白、マクベス夫人や女性はドレスではなく青いツナギを着ている。マクダフ夫人を襲う刺客がピエロみたいな画面をつけてて、ホラー映画みたいなポップさ。イングランドの場面では、赤と白の衣装。後半から場面が変わるごとにイングランドスコットランドの国旗を掲げて、最後はユニオンフラッグ(初代)になる、と。ところどころに遊びがあって楽しく見られた。

客いじりもノリノリでやっていて、門番は酔っ払いの演技で客煽りをする。ゲロを吐くと子供たちがキャー😆となり、吐いたバケツを客席に放るふりをしてまたキャー😆となり、つかみはOK。反応をいちいち確認してるのも楽しい。(いかりや長介のオイッス!みたい…って年が分かる)

門が叩かれるシーンではノックノック・ジョーク - Wikipediaで、門番と子供たちのコール・アンド・レスポンス。

門番:Knock, knock!

子供たち:Who's there?

門番:Toby.

子供たち:Toby who?

門番:To be or not to be!

ハムレットの名台詞でオチつけて、爆笑喝采。ギャグを説明するほど野暮なことはないと承知なんですが、このシーンすごいなと思ったのは、門番役の女優さんの間合いももちろんいいんですが、ちゃんと子供たちが理解してるというね。シェイクスピアはそんなに知らなくても、有名どころのセリフは子供でも分かってるという事。日本だったら何になるんだろうか。

オイッスで思い出したが、フリーアンスが父のバンクォーの後ろからおもちゃの大きなプラスチックの銃を持って近づくシーンで、観客が「志村うしろうしろ!」状態で笑った。バンクォーはすぐ気がついてフリーアンスを跳ねのけるが、抱き上げて「息子よ」とキスする。そこで観客があぁ〜ってなるとこまでほのぼのコントっぽくて、シェイクスピアは「8時だよ!全員集合」っぽい説はひそかに唱えていきたい(というか逆)。

マクベスが王になった時は、観客を民衆に見立てて最前列の子らとハイタッチしたり、森が動くところは客席から緑の大きな布状のものを舞台まで頭越しに運ばせたり(ライブのクラウド・サーフみたいなノリ)、観客参加型は予定調和っぽくなりがちだが、この演出は子供たちに興味を持たせるための演出なので終始いい雰囲気だった。ひねくれてシニカルな大人より、子供の方がやはりノリも良くお約束だろうと楽しんでいるのは微笑ましい。

しかし子供向けだからといって話の筋は変えず、血のりもたくさん見せてたし、マクダフの子を殺すシーンも残酷。

マクベスの最期は首でなくて、マクダフが血まみれ心臓をかかげるのだが、見ようによってはその方が残酷だ。でも子供たちはそこの表現よりその前のマクベスとマクダフの決闘シーンで大盛り上がりだった。

面白い演出なのは、マクベス夫人が前半妊娠してて途中流産する。これはマクベスが子供を跡継ぎにしたい気持ちから王座に執着するさらなる根拠になるし、夫人が狂って死ぬ理由を流産が原因とする事で分かりやすくなっていた。子供にも分かりやすく、の演出が物語の幹を強くしていた。

あと「女から生まれたものにマクベスは倒せない」の予言で、魔女が赤ん坊の人形を料理皿の豚肉の腹を裂いて取り出すのだが、これもマクダフの帝王切開の話の伏線になって分かりやすくしているのではと思った。

そんな風にテンポよくどんどん進んでるわりにはマクベスも夫人もキャラはブレてない。夫人が死ぬところでマクベスは自分も死のうとしたり、長々と悩まない代わりに演出でうまく見せているなと思った。

ダンスでフィナーレ。これも足と手拍子のリズムダンスと覚えやすいメロディで、子供たちに一緒にと促す。ここも照れずに楽しそうに参加していて、いい雰囲気だった。

面白かったのは、マクダフがフィナーレ前までマクベスの心臓を持っているのだが、どうするのかな〜と見てたら後ろの方にポイッと放っていた。たまたまだろうけど、シュールでポップな演出を象徴している。