横浜シネマ・ジャック&ベティで『LOVE LIFE』トークショーがあり、参加してきました。
ゲストは深田晃司監督と、主人公の義母・大沢明恵役の神野三鈴さん。
劇場は次の映画の上映があるため20分程度しか時間がないということで、お二人の挨拶の後にQ&Aという駆け足のトークショーとなりましたが、大盛り上がりで楽しい一夜となりました。
深田監督は濃いグレーのシャツに黒パンツ。神野さんは光沢のある茶系のふんわりしたワンピース。神野さん、スラリとしてとてもお美しく、そして可愛らしい!
深田監督(以下F)「お正月からこんなに来てもらってうれしいです。自分は東京出身なので、黄金町はあまり来たことがないのですが、ネットで黄金町の喫茶店を検索しようとしたら〝黄金町、ヤ〇い″とか〝ディープ″とか予測変換で出てドキッとしました(笑)」
神野さん(以下K)「みなさんありがとうございます。この映画見た後に私に会いたくないよね(笑)。私は神奈川出身なのですけど、こういうところは初めて来ました。ほんとディープな、って言ったらいけないかな(笑)」
まあ、確かにディープです(笑)。私もJ&Bには通ってますが、基本明るいうちだけです。おいしいパン屋さんとか猫のいる喫茶店とか行ってるけど、ディープな風俗店多いし。
K「この映画は矢野顕子さんの歌にインスパイアされたんですよね?」
F「20歳に聞いてそこからずっと好きな曲です。」
K「ではそれから何年…。明日監督はお誕生日なんですよ」
(会場お祝いの拍手)
印象に残ったコメントをいくつか。お互いについてお話したのを要点だけ。
F「神野さん含め俳優さんはすべてオーディションで選んだ。映画は最初の撮影が大事。今作は最初は妙子、二郎、誠、明恵が4人で病院にいるシーンを撮った。明恵が動揺して、妙子を傷つけるようなことを言ってしまった後に、誠が明恵をなだめ支えるという難しいシーン。しかし神野さんがその難しい台詞を言って、トモロヲさんが支える姿を撮れた時に、この映画はうまくいくと確信した」
K「深田監督の映画にとても出たかったのでうれしい。この役は映画の中でとても重要な役割がある。映画は贖罪について描いていて、とてもやるせないけれど、私の台詞はその中での救いのようなこと。どうしようもないことを、神の目線として語る。そういう役ができてとてもうれしかった」
ニュアンスがうまく伝わるか分かりませんが、神野さん演じる明恵はクリスチャンで、子を失った妙子に信心について語るシーンがあります。明恵の「科学や哲学では救ってくれない」という言葉で、妙子は「では敬太は神を信じてないから死んだのか」とかみつきます。明恵が「そうじゃない」と自分の信心について語る部分は、なぜ人は神にすがるのか、ということのあるひとつの答えであるように見えます。宗教的な啓蒙をしているのではなく、たくさんの「目線」があるということがこの映画の魅力だというようにも受け取れました。
最初のホームパーティのシーンは全員揃うスケジュールの都合で、実は最後の方に撮ったそうです。最初に病院のシーンていうのもすごいけど、唯一楽しいシーンが最後だったのか。
そしてQ&Aへ。(一問目の質問は私でした!)
Q1「黄色の風船以外にも黄色のモチーフがたくさんあった。黄色にしたのはなぜか」
F「黄色にしたのは小道具さんと打ち合わせたりして決めた。順番に黄色が出てきて、画面がつながるようにした。色をつなげるのは自分が好きでよくやる手法。これは同じ誕生日の宮崎駿監督もやっていて、『風の谷のナウシカ』はナウシカの青い衣がポイントになっている。あの作品はナウシカの服の色が大事。」
K「敬太君の服が黄色で、敬太君がいなくなってパクさんが黄色の服を来て出てきて。敬太君の幽霊が出てくる感じですよね。服の色については余談があって、最初に明恵が赤い服を着てるのは私のリクエストです。なるべく非常識な色合いにしてって」
Q2「猫がとても良い演技をしてましたがあれはどうやって」
F「猫は俳優より選ぶのが大変でした。人懐っこい子を選びました。パクさんの服から顔を出すシーンは一回でOKで奇跡。あの子は撮影後は無事もらわれていきました」
K「余談ですが、監督に猫と同じシーンを作って、ってお願いしたら『脚本上無理です。でも入りの日を一緒にするようにします』って約束してくれたのに、結局一緒になる日はなかった」
F「そうでしたっけ…。」(監督、この件を忘れていたらしくちょっと焦る)
Q3「神野さんの煙草を吸うシーンがカッコいい。喫煙歴は何年ですか」
K「うれしい、あれがはじめてで~す(←めちゃかわいい口調でした)。うそうそ(笑)。前に吸ってたんだけど、ずっとやめててあれが久しぶり。おかげでちょっと再開しちゃった。あのシーンはものすごく寒くて。寒い中の煙草っておいしいのよね」
(「煙草再開した」のくだりで「え、そうなんだ」みたいな感じで深田監督がまたちょっと焦る)
F「あのシーンは本当に寒くて。神野さんが羽織ってるのは夫役のトモロヲさんので、それは神野さんのアイディア。神野さんは現場でたくさんアイディアをくれて反映した。アドリブも多かったんだけど、あのシーンは色んな角度から何度も撮るので、時間も押してたし、整合性を守るためにアドリブしないでくださいとお願いした」
Q4「なぜオセロにしたのか。白黒つけられないのが人生という意味が込められているのか」
F「そのように解釈してもらってかまわない。ただ、この設定を考えたのは、パクが失踪していてどのように敬太の死を知るのか?というところを考えるとこから始まった。新聞に載るきっかけとして、何かの大会で優勝したという設定にするために、将棋などだと年齢的にありえないかもと思い、オセロになった。」
時間が迫り最後に神野さんが「ではみんなでLOVE LIFEの歌を歌って終わりましょう~」と言ったら、深田監督が「ええっ!」とまじめに驚いて。歌はもちろん歌いませんが、そんな終始楽しいトークショーでした。神野さんのいろんなつっこみに「そんなこと言ったっけ…」「そんなことあったのか」とまじめに焦る監督が可愛らしく。
終了後はロビーでパンフレット購入者にサイン会。深田監督に次作についてお尋ねしたところ、今公開に向けて準備中、年内にはとのこと。現在監督は岡山県で撮影中だそうですが、それはもう一つ先の作品のようです。
『LOVE LIFE』はシン・ナウシカだった⁉︎(プチ考察?)
妙子は最初青い服で、これもナウシカと同じ。最後雨が降って、妙子の青みグレーっぽいコートが濡れて濃い青っぽく見える。妙子が黄色の風船の中でずぶぬれになってるシーンは「その者青き衣を纏いて金色の野に降り立つべし」ってまんまじゃないですか。黄色い風船は王蟲だってこと?敬太がもらう飛行機もちょっとジブリ的ともいえる。流れる韓国の流行歌「オッパーオッパオッパー♪」はさしずめ「ランランララランランラン♪」なんですか深田監督ー!ってさらに聞きたいことが増えてしまった。
考え出すと符号しまくって、妙子たちの住む団地はさしずめ「風の谷」。二郎の両親は空気のいいところへ移住するし、団地=風の谷は住みにくいと思っているってこと。子供が死ぬ話とか、新しく子供を作る云々とかもドメスティックな小さい話のようで、世紀末的雰囲気もなくもない。敬太の死は、死にゆく世界のメタファーとも取れる。猫ちゃんはキツネリスのテト。妙子に宗教的な言葉を残す明恵は大ババさまのようだし。二郎はアスベルポジかなあとか。ではパクは?となるのだけど、あれは巨神兵みたいなもんかも。深田監督の作品にはエヴァでいう「使徒」のような侵入者(招かれざる客)が必ずといっていいほど出てくるのだけど、巨神兵は使徒が原型だから、侵入者のパクは巨神兵。すべてを破壊して去っていく。黄色の風船=王蟲が妙子の悲しみを癒しているかのような映像表現は、まさにナウシカのラストなのでは。
妙子が戻る場所は風の谷=団地、つまり腐海に囲まれた故郷しかないわけです(しみじみ)。
こじつけるといくらでもある。深田監督作、これからジブリつながり探してしまいそう。
謎は謎のままでも楽しいけど、まさかのナウシカオチ。いやー行ってよかった。