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おフランス版の波よ聞いてくれっへェェ〜!〜『午前4時にパリの夜は明ける』

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あらすじ(公式より)

1981年、パリ。結婚生活が終わりを迎え、ひとりで子供たちを養うことになったエリザベートシャルロット・ゲンズブール)は、深夜放送のラジオ番組の仕事に就くことに。そこで出会った少女、タルラ(ノエ・アビタ)は家出をして外で寝泊まりしているという。彼女を自宅へ招き入れたエリザベートは、ともに暮らすなかで自身の境遇を悲観していたこれまでを見つめ直していく。同時に、ティーンエイジャーの息子マチアス(キト・レイヨン=リシュテル)もまた、タルラの登場に心が揺らいでいて…。
訪れる様々な変化を乗り越え、成長していく家族の過ごした月日が、希望と変革のムード溢れる80年代のパリとともに優しく描かれる。

(※今回とても不真面目な調子で書いてます。ネタバレはありまぁす☆

アラフィフの星・シャルロットさま〜

わたくし何を隠そうシャルロット・ゲンズブールと同じ年でして。あと同じ蟹座(どうでもいい)。

彼女がデビューした頃は日本で何度目かのフランスブームがあって、映画やファッションが新しい時代を迎えてた頃。アニエス・ベーのボーダー、バレエシューズ、メンズのデニム、ハイネックニット、真っ赤な口紅。シャルロット・ゲンズブールはその中でも一番のアイコンだった。彼女が表紙のCutはまだうちにある。

その彼女も同じアラフィフかあ〜と見に行ったのですが、まあ変わらずかわいい。天使のような可憐さ。

もちろん皺も年相応、相変わらず細い体だけどちょっとたるみはあったり。でも化粧っ気のないのはもともとで髪の毛もボサボサなのはトレードマーク。何よりあのお母さんゆずりのこちらの心まで緩ませる笑顔は全然変わらない。

なんなんなんなん〜この魅力。彼女だってきっと人生色々あって、辛酸も舐めてきたでしょう。実際、お姉さんを亡くした事がつらずきて、パリからNYに住まいを移したと聞く。50代になるのが嫌だったというインタビューも読んだ。

でもあの子供の頃と変わらないあの笑顔と、あの囁くようなスウィートボイスを聞くと、スクリーンにいるだけでそれだけで優勝じゃん?

とまあ感想は終わってしまう。

というわけにもいかないので、内容に触れますと。

シャルロット演じるエリザベートは、夫が女をつくって出て行ってしまい途方にくれる。ずっと専業主婦で、働いたことがほぼない。どうしたらいいの、と年老いた父親に泣き崩れる。やっと採用された仕事も、データの保存し忘れで1日でクビ。賢そうな大学生の娘には「保存の仕方おしえたよね⁇」と呆れられる。息子は思春期の高校生で頼りにならず。

時代が1980年代、ということだけでなく、なんだか今でもよくありそうな話である。ミッテランが首相になった1981年の5月から始まるこの映画は、市民が政治に積極的で先進的でありそうなフランスでさえ、その「よくある事」はあったのだと気づく。

しかし夜中に聞いていたラジオに手紙を書いた事で、その電話応対の仕事に就くことに。

フランス版『波よ聞いてくれ

「クズ男に捨てられる」「金はない」「突然ラジオ局に勤めることに」という流れから、「あれ、これ沙村広明の『波よ聞いてくれ』と同じじゃね?」と、どうでもいいことに気づいた私。

もしかしてこれからエリザベートが深夜ラジオデDJビューして、自分を捨てた夫に向けて

「お前は地の果てまでも追いつめて殺す!」

とか叫び、カレー屋でバイトしながら、ラム肉を腐らせて隣人に迷惑をかけ、怪しい新興宗教施設で拉致され、雪山で熊と戦うのかしら。とドキドキしながら見ていたのですが、もちろんそんな事はありませんでした。

エリザベートは終始メソメソ・よわよわモード。仕事でミスしてメソメソ。それを慰めてくれた同僚とムードに流されてやっちゃったけどすぐ振られてメソメソ。メソメソ勢いで元夫の留守電に恨み言を言い続けたりして、自己嫌悪になるヤンデレ街道まっしぐらなキャラ。決してミナレのように別れた男にカポイエラの技をキメて、溜飲を下げたりはしない。まあミナレも一人の時は泣いてたりしてまあまあ可愛いとこもあるが。

とうとうお金に困って父親に援助を頼むシチュエーションもミナレもあったけど、そこもおフランスなので、親に金をせびるシーンなのに美しい親子愛になったりする。(ミナレの父親の対応についてはお察し)

若い女の子を助けるのはミナレと同じ。ミナレはマキエを兄の支配から解放する手伝いをし、エリザベートはタルラを一時でも家族の一員として受け入れる。ここは見てて、『波よ聞いてくれ』は実はフェミニズム漫画であり、女性の孤立と、その先のシスターフッドについても描いていたのかという気づきがあった(作者はそこまで考えてたか知らんが...)

そもそもエリザベートがラジオ局に勤めたのは、「夜の乗客」というリスナーのお悩み相談をする番組を、夜中眠れず聞いててファンになったのがきっかけである。ミナレはたまたまDJになるのだが、元々ラジオリスナーであり、マキエもラジオによって新しい人生を拓いていく。

エリザベートが採用されるのも、「夜の乗客」の人気パーソナリティ・ヴァンダ(なんとエマニュエル・ベアール!)が彼女の身の上話を聞いて、同情したゆえである。ここもシスターフッド的なシーンだ。ちなみに『波よ~』でも似たような女性キャラが出てくる。

「夜の乗客」はリスナー参加型の番組で、夜中に言えぬ思いを告白する人々が集う。タルラもその一人であった。ラジオ番組はコミュニティであり、セーフスペース、セーフティネット的機能を果たすことがある。これは他の媒体ではそう起こらないのではないか。『波よ~』でも北海道地震のエピソードでは、ミナレの緊急DJが真夜中の被災者を落ち着かせ、慰める。

ラジオ局という舞台で、たまたまとはいえ、本作と『波よ聞いてくれ』これだけ共通してるのはなかなか面白かった。

途中ヴァンダが番組をお休みした時に、エリザベートが代行するシーンがあるのだが、シャルロットのスウィートボイスはもうちょっと聞いていたかった。もちろんミナレのように波よ聞いてくれっへェェ〜!」とかいかれたタイトルコールはしないのである。

映画の原題は "Les Passagers de la nuit" でラジオ番組名の「夜の乗客」の意味なのだが、こっちの方がいいよねえと思う。邦題も悪くはない方だが、タイトルになんでも「パリ」って入れると集客がいい日本人のツボをついててあざとい。

なんだかんだシャルロット・ゲンズブールだからね?

そして7年の月日の中で、エリザベートはラジオ局の仕事も続けて、図書館のパートもしつつ。そんで図書館によく来る年下の男性にデートに誘われ、なんやかやうまくいき。娘も息子も育って自立して。それなりにがんばって生きていく様が描かれるのですが。

その年下彼氏とデートする前に、エリザベートが口紅を同僚に借りて塗るんですが、超適当なのにかわいい!ほぼすっぴん、櫛を通してなさそうなラフな髪、ジーンズにブーツ、革ジャン、適当に塗った赤い口紅。そんなのシャルロット・ゲンズブールだからいいんじゃん!としか思えませんでした。日本のアラフィフ向け女性誌に絶対載ってなさそうなコーデ。まあ狙って撮ったシーンなんだろうけど、口紅貸してくれた同僚の「かなわないなあ」という表情が絶妙でした。

フランス女性の生き方の歴史をかいま見る

フランスだから日本だから、という括りにしなくても、女性だからこその生きにくさを描いてて、ただオシャレなパリの映画だけではないのも見どころ。

エリザベートが離婚してどうしようとなってるのも、フランスは一人親家庭や福祉に手厚いのでは?と思ったけど、PACSが始まったのは1999年だし、80年代はまだまだ男性優位の家父長的結婚制度が主流だったのかなあとも。ミッテラン就任後のフランスだけど、それほど政治の話は出てこない。でもその時代の変化、をさりげなく見せている。

ホームレス少女・タルラの描き方も、若い女性の貧困が問題視されているというのを当時フランス人の先生に授業で聞いたのを思い出した。タルラ演じるノエ・アビタの演技や存在感がとても印象的で、台詞が少なくともタルラの持つ複雑性や悲しさ、取り巻く環境の悲惨さを感じる。エリザベートを取り巻く人生を描く物語なので仕方ないが、タルラはもう一人の主人公として最後まで掘り下げてもよかったのでは、と思った。特に彼女が去ることになってしまった理由がちょっと納得しづらい。あの後、どうなっちゃったの...と。でもそれも含めてフランスの有り様なのかな、とも思う。

 

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波よ聞いてくれ|アフタヌーン公式サイト - 講談社の青年漫画誌