劇団コンプリシテのサイモン・マクバーニーの一人芝居の配信。
これから見る方はなるべく前情報入れない方が絶対おすすめ。そしてできるだけ性能のいいヘッドフォン(イヤホン)を必ず使用すること。装着しないで見ると面白さはほぼなくなります。
英語が分からなくても楽しめるし、むしろ言葉はあまり意味をなさない。
いわゆる体験型の演劇。
配信ならではの楽しみもあり、これを選んだサイモンの意図もよく分かる。
下記は内容に触れています。
題は「Encounter」=遭遇。
原作はペトル・ポペスクの"Amazon beaming" 。ナショナル・ジオグラフィックのカメラマン、ローレン・マッキンタイアが1969年にブラジルの先住民区域ジャヴァリ谷に飛行機で遭難し、マヨルナ族などに未知のものに遭遇した時の体験談を基に書かれている。
サイモンが20年ほど色んな人に会い、ブラジルやアマゾンへ出向き、マヨルナ族にも会い創作したそう。
映像は劇場の開演前から始まる。画面の手前、一番後ろの席にいるサイモンが振り向き話しこちらに向かって話し出す。第四の壁を超える演出。実はその時見ている劇場は、スクリーンに映し出された映像。暗幕を剥がすとサイモンの家。途中、娘さんが入ってきたりする。これは現在の映像だ。サイモンが机のパソコンを映し、そして舞台の配信がいよいよ始まる。ここまで今回の配信のための前説のようで、これまた凝っている。
そして芝居が始まるかと思えば、舞台上のサイモンが皆にヘッドフォンをつけるよう再度確認して、この芝居の音響効果について事細かに説明する。マイクが何本かありそれぞれに仕掛けがある。右から左から、頭の後ろから、音が聞こえて、まるで頭の中をいじられているような感覚。
芝居は遭難したマッキンタイアに扮したサイモンの一人語りなのだが、録音されている音声も多用され、リフレインや多重に音声が飛び交う。マヨルナ族の声、アマゾンの動物、植物、飛行機の音、食べる音、足音、たくさんの音。すべて手元にある小道具で音を作る。しかし録音もあるので、今サイモンが実際に話している言葉はどれなのか見失う。
時々思い出したように、先述の娘さんの声がする。部屋で作業するサイモンを訪ねてくる設定で、あたかも彼女がいるかのように演じる。
照明は最低限。最初はシンプルで、だんだんとアマゾンの奥地に迷い込むにつれ暗くなり、混沌としてくる。音の混沌と照明の混沌がシンクロしていく。
未知のものに遭遇し、混沌としていくマッキンタイアの意識の変化を一緒に擬似体験している。
コンプリシテの意味はフランス語で「共感、一体感」。単純に訳すとそうなのだが、人と人の心のつながりや絆という観念的な意味があるっぽい。その言葉を体現するような芝居で、体験でもありました。
サイモンの今作の創作のまとめもあり、こちらも気になる。
最後にサイモンは、取材をしたブラジルでのCOVID-19の感染拡大について胸を痛めていること、そして世界からの助けをと呼びかけている。
余談ですが、沙村広明の漫画『波よ聞いてくれ』を思い出しました。ラジオDJの主人公が架空実況の体で「北海道の山奥で熊退治」したり「夫を殺して埋めたら生き返って宇宙人に襲われる」とか変な放送するエピソードがあるんですが、これが面白くてですね。漫画という音声を伴わない表現世界で、音声をネタにしてるというのにその臨場感がリアル。多分に沙村広明さんのセリフのテンポの良さが大きいんですけど、音声だけで表現するってあらためて面白いんじゃないか?と思って最近ラジオちょいちょい聞くようにしてます。映像によるエンタメが溢れている昨今、音だけ受け取りにいくというのはこちらの想像力や感覚の余力を感じることができて面白い。
映像配信も今後色々やり方が変わっていくのかなと思うけど、アナログとデジタルの化学変化が音声表現はできそうで楽しみだな。