je suis dans la vie

ライブとか映画とか芝居とか。ネタバレ有り〼。

「8月のクリスマス」@シネスイッチ銀座

韓国のホ・ジノ監督の名作のリメイク。そちらは未見だが、ほぼ同じ雰囲気で映しているようだ。少ない台詞、人物正面からのカット、流れる景色と季節。淡々とした日常を切り取った、優しい時間が流れる。ただ主人公・寿俊(山崎まさよし)が、近づいた死にむかっているという不幸以外は。
山崎さんは、技術的な演技はともかくとして、ただその佇まいだけで魅力があり、スクリーンの中での存在価値がある。冒頭の雪景色の生まれ育った街を眺める瞳、それだけでぐっと引き付けられた。
脚本としては、少しあざとさがあった。分かりやすい展開ではあるけど、現実味がない、とでもいおうか。関めぐみさんの演じる臨時教員・由紀子との出会いは、もう少し自然で印象的でも良かっただろう。ただ、現実味がない分、この物語のファンタジー性はより澄んだものとなっている。
関さんと山崎さんのつたないながらも、爽やかな演技を、西田尚美さん、戸田菜穂さんといった演技派が支え、輪郭をクリアにしていた。とりわけ、戸田さんの出番は少ないながらも、山崎さんの男性としての色気を引き立て、寿俊の過去や性格を言葉ではなく、二人の並んだ姿だけで納得させるものがあった。
色気といえば、関さんは美しいけれど、あまり女性の恋情というようなものを感じさせない。寿俊と由紀子は触れ合うことが少なく、惹かれながらもある距離がある。それだけに、唯一二人が肩を寄せ合い、相合傘をするシーンは引き立った。山崎さんの手が、これがまたいやらしい。彼女を雨から避けるために、すっと腰に手をやり引き寄せる。その引き寄せ方が指や手の平ではなく、手首を柔らかく彼女の腰の窪みにはめる。本人意識してるのかしてないのか、分からないだけに、こちらまでドキドキした。
あまりに二人が強く引き付けあうシーンがないだけに、あまりにこの恋は淡々として、寿俊の由紀子への想いもあまり伝わってこない。写真館の店主である寿俊が見る由紀子は、いつもファインダーを通したように美しく、清い。それは死に行く寿俊が、彼女をそれ以上は自分の傍に置かない事で、余計な想いをかけられることもかけることも避けたかったのだろう。だから、由紀子の新しい赴任先へ出向いた時も、ただその姿を遠くから目に留めることだけしかしなかった。
そのことについては寿俊に共感していた。けれど、反面、由紀子はどう思うだろうかと思いながら、その話の流れに疑問を感じていた。あまりに純粋すぎて、現実味がない。
その疑問が晴れたのは、ラストシーンだった。死後、寿俊の店へ出向いた彼女が見せた笑顔は、自分が誰かを幸せにできたのだという喜びの表情だった。誰かがいなくなってしまうことは悲しい。けれど、自分がその人の心の中で幸せな想いを芽吹き、育てたということは、互いを救ったのだと思う。