je suis dans la vie

ライブとか映画とか芝居とか。ネタバレ有り〼。

ありがとう。

ありがとう。 (角川文庫)

ありがとう。 (角川文庫)

先に酒井順子さんの解説を読んだ。おそらくは、近くで鷺沢さんのことを見つめ、大事にしていた人の切なる想いに打たれ、早々に喉元までせりあがるものを感じた。
近年のエッセイを集めた本作は、著者の若い頃のそれの疾走感とは違い、深く、内に内に向かい、自身を正面から見据えていたことがうかがえる。最愛の父の死について書いた「砂壁のアパートで」、かつて愛した人との切ない思い出の「花束」、これ以上はないという苦悩の時代の「一本の電話」。彼女がいつかは書こう、書かなければいけないと思っていたんだと感じさせる。昇華して、文章にできるまで、きっと幾重もの想いを、誰よりも重ねてきてしまったのだろう。
それ以外にも、日本の男性への喝、周りの人々との心温まるエピソード、韓国への思い、沖縄への恋にも似た憧れ、盟友・酒井さんとの負け犬話。バラエティに富んで、著者の筆力が苦悩の時代を経て、さらに力をつけている。
そして、周りのひとびとへの感謝の想いを綴ったあとがき。
何度も、何度も、胸にせりあがるものがあった。ぐっとこらえながら、なんとか読みきった。でも、堤防がぐわっと崩れてしまうように、嗚咽してしまったのは、最後に酒井さんの解説を読み返した時だった。
1年以上経って、悲しいし、つらいし、けれど仕方ない事だと、言い聞かせてきた。昔の作品を読み返せるくらいには立ち直っていたはずだった。でも、酒井さんの、静かな優しい文章を読んでいて、やっぱり「どうして」という押し殺していた言葉が、自分の中に蘇ってしまった。自分をこれだけ愛してくれる人に、こんな文章を書かせてはいけない。怒りさえもともなって、私はただただ泣き伏した。それだって、どうしようもないことなのだろうけど。
けれど、鷺沢さんをいつまでもこういう風に想っている人がいることは、やはり素晴らしいことなんだと思う。作家としての彼女だけではなく、まんまの彼女を慈しんだ人が大勢いるということ。そのことだけはほんとうに、複雑な思いの中で、嬉しい事である。