je suis dans la vie

ライブとか映画とか芝居とか。ネタバレ有り〼。

なつやすみの読書感想日記

今年の夏休みはおとなしく過ごしました。怪我も病気もなく。ほどほどに遊び、ほどほどに休み。音楽の喧騒の後には読書で静寂を。

さいはての二人 (角川文庫)
鷺沢さんの最後の恋愛小説。ハードカバーで持っているのだが、もう一度読み返したくて。
表題の作品は、恋愛ものであると同時に、この国が持つ戦争の傷跡、原爆で起こったことをかなり突っ込んで描いている。セルフインタビューでも触れていたけれど、あの原爆投下は「実験」であり、「黄色人種の国」であったからだと。
主人公の美亜は、被爆者の朴さんと知り合い、その傷に触れて自身の傷と重ね合わせる。「この人はあたしだ」という。恋愛をした時の同調、同化現象。稚拙で、はかない想いだが、美亜はそう思うことで救われる。本当は朴さんが、自分に合わせてくれていたのだと気付きながらも。自分に流れる半分の外国の血を、汚れではなく、愛されていた証の名を持つと言ってくれた男を自然と愛していく。
人はたったひとことで救われることがある。それだけで生きていけそうな、そんな気になることがある。鷺沢さんはいつもそんなキラキラした言葉を捜し出してくれた。

向田邦子の恋文 (新潮文庫)
ドラマにもなった向田さんの隠された恋を、妹さんの和子さんが淡々とした筆致で語る。覗き見趣味的な描写はなく、二人の書簡、N氏の日記も、二人がとても親しかった、ということ以外は現れない。けれど、それが日常的で平穏な内容であればあるほど、この恋が一途で純粋であった事がうかがえる。爆笑問題太田光さんによる書評も素敵。
鷺沢さんの作品にも通ずるが、「人は誰でもたった一度は命をかけて恋をする*1」のだ。

先日急逝したことを知った。追悼、というのではないが、時折読み返したくなる本作。完成度の高い短編集。何度読んでも、その文章、ストーリーテリングに感嘆する。

LAST (ラスト) (講談社文庫)
石田衣良は現代の現実を明確に、けれど面白く見させる。本当に追い詰められた人間の、正直な心、行動を一歩おいて、サディスティックに見えるほど描くのに、全体からかもしだされる空気は涼しげでPOPだ。

空港にて (文春文庫)
久々に読んだ村上龍はなかなかいい。この人って、こんなに優しかったっけ。表題作と「コンビニにて」が良い。自分の頭の中を描写されているような、不快と快感の間に食い込む。「いろんな本を読んだり、音楽を聴いたりしないと自分自身の考え方は手に入らない」という言葉を最近よく聞く。山田詠美も、石田衣良もインタビューで似たような事を言っていた。確かにただ生きるだけならば、そういうものは必要ない。けれど、自分や自分をとりまく環境が狂わないために、世界に取り残されないために必要なんだと思う。良い物をより分けて、食事のように栄養を取らないといけない。そういう人を私は信じられると思う。

正直言って、ピンと来なかった。話は面白いとは思う。ただ読み終わった後に、魚の小骨のような違和感が残った。多分、ウェットな筆致のせいであると思う。重松清もウェットだが、納得はいくのだ。好みの問題だとは思うが、私はもう少し渇きが欲しいタイプなのだ。題名の通り、トゥーマッチな感が残る。

*1:美里の歌「素顔」より