je suis dans la vie

ライブとか映画とか芝居とか。ネタバレ有り〼。

「亡国のイージス」@ピカデリー1

日本でエンターテイメントな作品が増えたなあと思う。
防衛庁が全面協力しているので、かなりリアルなイージス艦を見るだけでも価値あり。ハリウッドスタッフも参加して、その辺のノウハウもぎっちり詰め込んで生かしている。役者も知名度と実力が備わった人が多く、監督は阪本順治ときたら鬼に金棒。
ただ、そんな大仰なラインナップに反して、というかそれに頼らず、話はあくまでフィクションで楽しめた。それはないでしょう〜、という部分も多々あり、それもまあ楽しく見せるためのエッセンスであった。脚本はできるだけ専門用語が多くならないように、分かりやすく、男のドラマに仕上がっている。阪本監督にしては意外に、といっては失礼だが、阪本色が強く出ていないのが良かった。「KT」のようなビリビリした感じもあり、しょっぱなの伏線の張り方なんかも阪本監督らしいのだが、「KT」はやはり実話を基にしている重さが先に来て、楽しみながらも考えさせられる部分が多かった。この作品でも「国防」「日本国」「戦争」「平和」などなど、キーワードは多い。「相手が攻撃する前に攻撃しない」という日本独特の国防態勢について、考えさせられる。それが良いか悪いか、という答えを求めるのでなく、そういう国なのだと改めて認識した。しかし、そういう事もうまくエンターテイメントと人間ドラマの中の一つとして織り込んでいるので、難しいことを考えないでもいいかもしれない。見方はいろいろできる。
如月行役の勝地涼くんがとにかく良い。「キッチン」の舞台ではおおらかな少年だったが、影のある繊細な役をキラキラと、でも研ぎすぎたナイフのような触れたら危ない感じが出ていた。穏やかな目と鋭い時のそれの使い分けが、今の年齢の彼ならではだろう。真田広之は、真っ直ぐすぎるくらい真っ直ぐな役を嫌味なく演じて、アクションシーンもさすが元JACですなあ。中年の哀愁も漂わせつつ、動くとめちゃ機敏。
脇役もアテ書きかというほど、はまっていた。谷原章介さんの情けなさ、豊原功輔さんの迷い、光石研さんの温かさ、安藤政信くんの切なさ。他にもひとつひとつの役が光る。
中井貴一(ここだけ呼び捨て)は悪役をやるとやっぱりはまる。だって、絶対悪役顔だもん!寺尾聰さんはいつも通りの善と悪で悩む実はいい人役なんで、またかあと思いつつ、やっぱうまいんだよな。
そしてなんつっても、影のヒーローは佐藤浩市サマですよん。やっぱセクシー、やっぱかっちょええ。甘さと渋さと強さ。男が持つべき美しさをすべて兼ね備えてますねえ。それを支える岸部一徳氏のいい加減さは、本当に「良い加減」の枯れ具合。この二人が今回の阪本色といえばそうかも。阪本作品常連だし。
そうそう、井上真鳳さんが出ておりました。声で分かりました(違ってたりして)。
原作とはまた違った展開もあるようで、映画のほうは早めにネタばらしして、スイスイ進んでてよい。でも、伏線をきっちり張ってあるので、ファーストシーンの展開を見ていないと取り残される。いらないな、というエピソードも多いのだが、その辺はご愛嬌か。人間関係が微妙に入り組んでいるので、原作を読めということなのかもしれないけど。
個人的には、阪本監督にはこういうのもやりつつ、ダークでヘヴィな作品を撮ってほしい。男の情けなさ、ずるさ、強さ、弱さ、生き方、そしてそのあるがままの姿を等身大で、美しく描くのは阪本さんならでは。