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猛暑の夜の夢(3)~Fuji Rock Festival―フジロックフェスティバル2023二日目参戦記(GGP編)

GOGO PENGUIN(フィールドオブヘヴン)

2020年の夏は来ぬ

思い返せば、2020年のフジロックに出演予定だったゴーゴーペンギン。当時GONDAWANAからブルーノートへレーベル移籍し、バンド名を冠したアルバムを引っ提げてのフジロック初参加。日本では2018年のブルーノートとライブハウスツアーが好評だったので、フェスでたくさんの人の目にとまりブレイク必至、と思っていた時のコロナ禍。フジロック中止。

ロブ脱退からの再スタート

そして時間は流れ、いつのまにやらドラムが変わり、レーベルも新たにソニー系列のXXIMになり。今回、ニューアルバムも出てバンドとして再スタート、という中での久しぶりの来日がフジロックリベンジ。どのくらい変わってるのか、どういうアプローチになるのか、まったく分からず、ドキドキと不安。

というのも、以前のドラムのロブ・ターナー、彼の存在はあまりに大きかった。マシンのような正確さと、極限まで感情による波やブレをおさえ、そしてぎゅっと音をとらえて離さないようなストイックなドラミングは、こうして言葉にすると個性のないように聞こえる。けれどその極限まで崩さない姿勢が、ベースのニック・ブラッカの爆ぜる瞬間を引き出し、ピアノのクリス・アイリングワースの澄んだピアノの繰り返し寄せる波のような音の粒を際立たせる。

輪ゴムをぎゅーっと極限まで、切れそうになるまで引っ張って、ぽーんと遠くまで飛ばす、あの感じに似ている。と言って分かってもらえるか。

新しいドラムのジョン・スコットと共に作ったニューアルバム『EVERY THING IS GOING TO BE OK』を聞いても、新しいバンドの音はどうなっているのか、よく理解できていなかった。ソニーなのでめちゃくちゃ音はいい。ブルースペックCD(BSCD2)ってこんなに違うの、とマニアでなくとも分かる。けれど雑音とかひずみが少ないことで、クリアすぎたのも判断がしかねた原因かも。何より、曲が明るい。ポップスのような明るさ、アートワークの青い空と白い雲と鳥。ボーカルがあれば歌詞で判断できるのかもしれない。そういう面では、各曲のタイトルが以前より具体的だ。

という思いを抱えてフィールドオブヘブンへ。(前置き長っ)

安定と変化の共存したライブ

昼間の殺人的な暑さが落ち着き、雲で日差しが和らいで、微かに風も感じられた(それでも熱い)夕刻の少し前。

1曲目は新譜から「We May Not Stay」。アルバムでは中盤で、クリスの鍵盤のリフの美しさとバンドの初期からあるアンニュイなイメージの音。そこから初期の定番曲「Bardo」へ。この辺りは大きくイメージが変わった雰囲気はない。映画ならば静かに始まるイントロダクション。

けれど、ドラムのジョンの軽快さはどうだろう。なんという軽やかさ、自由さ!

ロブのドラムがひたすら内に潜んでからの爆ぜを誘うバネのような飛び方なら、ジョンのドラムには羽があった。あちこちを飛び回り、軽やかに、時に止まり木を見つけ羽を閉じる。ロックフェスというのも鑑みてなのか、時に手数を増やして音を激しくしてみたり。ちゃんと分からなかった部分も多いが、他二人のアドリブもかなりあったのでは。

セットリストは新譜と旧曲から半分ずつくらい。

GGP Fuji rock fest 2023 set list

これとラストに「Protest」。ロブが最後に参加した『GOGO PENGUIN』からは1曲もなし。エレクトロ色が強い曲が多いアルバムなので、バランスゆえの選曲なのかもしれないが、ジョンによる「Kora」や「F MAJ PIXIE」も聞いてみたい。

選曲もだが、実際にライブで見て聞くと「安定と変化の共存」というイメージがあった。序盤の自己紹介的なイントロダクションで、お初の観客と久しぶりのリスナーを誘い、中盤に場が温まったところで新譜から「Friday Film Special」「Saturnine」「Everything Is Going to Be OK」の流れは、新しくなったバンドの音をのびのびと楽しそうに。

そして定番曲「Murmuration」。不穏な宗教的な音はそのままに、より広がりを感じさせる。

ロブとジョンとどちらがいい、好みだ、というのではないということに気づく。曲は作った人のものであるか、演奏する人のものであるか、はたまた聴く側のものとなるのか(著作権的な意味ではなく)。そういう境目のようなものが、グラデーションになって溶けていく。変わらないことも、変わることもあるけれど、ただただ音は時間とともに前へ進んでいくものだった。この世界は誰のものでもなく、けれどここに人がいて、音がある。フジロックのステージはよりそれを強く思い出させた。

新曲「You're Stronger Than You Think」から名曲「Hopopono」への流れは秀逸で、タイトルの意味もさることながら、コロナ禍を超え、それでもまだ続くであろう世界の持つ苦悩を知りつつ、進むことを「選び」それを祝福せんとするように聞こえた。

後で思い出したのだが、ここ数年でニックは母と兄を病で亡くしている。その頃の様子はSNS越しの少ない情報でも、彼の喪失がひどく大きいものであるのは感じ取れた。それがどのくらい影響があったかは計り知れないが、新譜のメッセージのある曲タイトルと新しい音作りへのチャレンジ、彼自身を鼓舞するかのような「声」が聞こえてくるかのようなライブだった。

 

 

フジロックのステージがよくわかる記事。クリスのピアノ、坂本龍一の影響はいくらかあるんだろうなとは思っていた。ジョンの経歴のなんと幅の広い事か!

rollingstonejapan.com