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ライブとか映画とか芝居とか。ネタバレ有り〼。

スマイル0円で王様になろう〜G.Garage///『リチャード三世』すみだパークシアター倉

2022年、観劇はじめはもちろんシェイクスピア

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河内大和さん率いるG.Garage///(ジーガレージスリースラッシュ)の公演は初めて。カクシンハンの俳優さんも多く、こちらも未体験なので、慣れない部分もありましたが、総じてエンターテイメント性が高く、スピードと熱気のあるライブ感あふれる舞台。

 

舞台は平土間、客席は急勾配なので見やすい。奥と上手に暗幕があり、俳優が出入りする。暗幕は時に大きく開かれることもあり、さほど広くはない舞台で奥行きを感じさせる効果をもつ。暗幕手前に椅子数脚。天井にはゴシックなシャンデリア。下手奥にドラムと手前にサックス。時節柄か大きなアクリル板で囲われる。

開演前、センターに大きな馬の頭蓋骨が象徴的に置かれている。そのまま怪しい雰囲気の中始まるかと思いきや、河内さんの「前説」が(爆笑)。白いロングコートにメガネをかけて、カミカミでおかしなイントネーションで、リチャード三世のあらすじや相関図の説明をする。まさに前説。場が和むのと、シェイクスピアに馴染みない人や、私のようにカクシンハンや河内さん主宰のプロジェクトに馴染みがない人には良いとっかかりかなとは思いました。が、作り込んだ舞台の雰囲気を保ったまま芝居に入った方が統一感がある気もするので、なくても気にはならない。

 

芝居が始まると、河内さんは体を折り曲げ、一気に異形のリチャードへ。左足にブーツ、右足にフラットシューズと半身で高さが変わるようにしているので、これ相当体に負担があるだろう。ずっと中腰だし。

強く鍛えられた筋肉に反して、醜さを表現するための体の動き。なにより終始浮かべられる笑顔!

「俺には天賦の人を騙す才能とこの笑顔がある」

という台詞そのままに、飄々と人を騙し殺しあやつり狂い咲く。

象徴的なのはアンを口説くシーン。夫の仇敵にあっさり心奪われるアンについて「なんでこんな状況でこの女心変わりすんだ?」って客席にリチャードが聞いてくるんだが、確かにその通りで。でももうそらあーたの笑顔でしょ〜。愛らしいんだか魅力あるんだか既に分からないけど、あれだけずーっと張り付いた笑顔見てたらまあいっか、と納得して話が進む不思議。敏腕営業も押し売りの訪問販売も宗教の勧誘も腹黒い政治家の選挙ポスターも叶わぬ笑顔の技術。株式会社白薔薇のモットーは笑顔なのでした。

冗談じゃなく河内さんの笑顔、ずっと見てたんだけど、よく目が笑ってないとか笑ってるとか言うじゃないですか。目もね笑ってるんです。ちゃんと漫画みたいな薄い三日月型。でもその薄い隙間から見えるのが時々白眼で。わざとなのかそれが素なのか。席が前の方だったので、目が合ったような気がする時があったけど、少しずつ視線は変えてるのも分かったし。張り付いた笑顔の中の機微の演技が河内リチャード。

俳優さんの個性が際立っている演出で、特にヘイスティング役の白倉裕二さん。軽快で軽妙で賢いが軽はずみ。タップダンスの効果も合ってか音楽にも一番のっていた。金髪でサングラスの小物使いなども効いていた。ポップ感溢れるヘイスティングス、ともすると他を食いかねない危うさもあったが、このチャレンジは見ものだった。白倉さん、顔は岡田浩暉さんや渡部豪太さんの親しみ和犬系統で、そこにお笑いやミュージシャン的な要素もある音の感性があり、面白いリズムで芝居を攪拌する。殺される前の往生際の悪さをタップダンスで表現したのは出色。

アンとマーガレット二役の真以美さんは、カクシンハンの女優さんということで、さすがの台詞の読み込みと伝達技術が際立つ。アンのヒステリックな少し不快にも偏る印象的な声音の表現も、客席に届けるための聞き取りやすさにも成るバランス。マーガレットの静かな呪いと憎しみの演技のコントラストも見事。

難波真奈美さんのヨーク公爵夫人が、効果的にリチャードへ落とす陰は全体へも侵食する。山口磨美さんのエリザベスはその脇の甘さをコミカルに。堀源起さんもエドワード四世とティレルの二役の演じ分けが見事。大洞雄真さんも若干十六歳ながら、幼いヨーク公の無邪気な高慢さと、リッチモンドの存在感ある熱演で二役をこなす。

二役演じる役者さんも多く、またモブを兼任することも多い演出。衣装全体のベースが黒なので、印象が重なる俳優さんも多かった。特に男性は体型が似てる人が多く(細身かダンサー系マッチョ)、髪型や髪色もそこまで区別があるわけではない。ユニットのイメージもあるのだと思うが、もう少し様々な容姿年齢の俳優さんがいた方が好みではあった。それもあって前述した白倉さんが見た目に工夫した分目立つというのもある。

その中でもバッキンガム役の鈴木彰紀さんとケイツビー役の横井翔二郎さんの、気品と影のある、その体のラインを見せる所作は際立って華があった。白倉さんが目立った分、そこの対比がもっとはっきりしてても良いかなと思わないでもないが、終始リチャードを支える演技に徹して全体バランスは壊さない。

仲の良い座組みなのがよく分かる。それゆえにリチャードと他との対立が若干弱く感じる。視覚的にはリチャードの醜さやおぞましさは分かりやすいが、内面的な孤独や疎外感を感じる部分が少なくも感じた。河内リチャードが好ましく愛らしいのもあるが、他の役者の見せ場を際立てた際のバランスは難しい。ハコの大きさゆえの距離感や演出の仕方も影響するし、かといってこれ以上出演人数を減らすも難しい演目ではある。

それでもリチャードの最後の独白はすべて包括し、こちらが委ねられるだけの力を持った台詞であった。ここはさすが。最後まで笑顔。無償のスマイルは誰に見られてなくとも絶やさず、そして誰にも愛されず報われない。

ドラムとサックスのインプロっぽい演奏は全体雰囲気によく合ってて、楽日の盛り上がりもあってかライブ感強くて良かった。それだけに仕方ないがアクリル板なければとしみじみ。

すみだパークシアター倉、初めてでしたが、こぶりながらも見やすい座席、スピーカーがBOSEで音響良し。帰りは大横川親水公園を散歩し、スカイツリーを見ながらのんびり。水面に映った歪んだ逆さスカイツリーがリチャードのようでした。

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