je suis dans la vie

ライブとか映画とか芝居とか。ネタバレ有り〼。

「MILK」

ショーン・ペン主演の、実在したゲイの権利活動家、ハーヴィー・ミルクの半生を描いた映画。
ミルクは政治家、というよりパフォーマーとして素晴らしかったのだと思う。もちろんショーン・ペンの演技がそう見せているのだけど。彼の長いとはいえないけれど濃い政治活動であれだけの人やものごとを動かせたのは、求心力、カリスマ性、発する言葉の力、行動のすべてが力をもっていたのだろうと思う。ゲイという特殊性だけではなく。
ただ、結局、彼のその皆を照らす光や、大きすぎる心意気が、大きな影を作ってしまった所が切ない。公私ともに最愛のパートナーのスコットも、おばかだけど無邪気にミルクを慕う若い恋人ジャック(このディエゴ・ルナがかあ〜い〜。ほんとバカなんだけどかわいい)も、ミルクの光が作った影に飲み込まれて、スコットは去り、ジャックは自らの命を絶つ。そして、最後には、ミルクの影に隠れてしまった男に、その光を断たれる事に。
政治家、というよりスターの話みたいで、実在の人とはいえ、映画だしうまくできすぎだよなあという面も感じてしまったけど、実在云々は置いておいて見た方がよいかも。ショーン・ペンじゃなかったら、ちょっとヒロイズムに酔った人物像になってしまったかも。ほんと、この人は、こういう濃い役をさらり〜とこなす。いつも、ショーンの映画は見終わってからジワジワくるんだよね。見てる最中は淡々と見るんだけど。台詞とか、仕草とかが後でよみがえる。
政治の話も面白いのだけど、ミルクの人となりがこの映画の面白いとこ。周りのみんなに、わがままばかり言うバカなジャックと別れろと言われても、「僕は年寄りで醜い。彼のような若くて美しい恋人を得るのは難しい」なんて、既に政治家として素晴らしい人なのに、男としては弱気だったり。敵対する政治家のホワイトに絡まれた時に、「今までの恋人のほとんどが自殺未遂をした。僕がその関係を隠していたために」と、思わず本音を吐露するところとか、ただのカリスマじゃなくて、今までどれだけ傷ついてきたんだろう、この人はって、それまでの明るいオネエっぷりからの落差が激しくて、ぐっときた。それだけにジャックを失った時の絶望ぶりは、ほんともういい、もういいよって。そしてその後も、皆に取っては明るい太陽でなければならなくて。この明と暗のバランスが、ショーン・ペンは絶妙。
今でこそ、ゲイの結婚が認められてたり、映画やドラマで取り上げられるのが珍しくなくなったけど、当時は同性愛と小児性愛が同列に語られていた事にびっくり。いや、ちげーだろ、とゲイ排斥の政治家の発言を聞いていると呆れてしまう。しかも、この映画のキモとなる「Proposition No.6」は、同性愛者の教師を解雇できるという法律を制定しようという提案なんだけど、それが住民投票で可決されたら、、正真正銘「法律」でゲイが裁かれちゃうわけですよ。教師だけじゃなくて、他の仕事だって「ゲイだから」という理由だけで「解雇しちゃっていいよ」という、あらゆる権利を剥奪、っつーか死ねっつってるのと同じ。今だったら信じられない。この提案をミルクは体を張って阻止する事に成功するのだけど、もしこの法律が是とされていたら、今頃どうなってたんだろう。当事者の問題だけでなく、その家族とか、そして社会全体の有り様とか、教育とか文化とか、いろんなものが制限される事に慣れきった社会になっていたかも、と思うと恐ろしい。
今だって、ホモフォビアとか、宗教上の理由などで、どうしても同性愛を受け入れられない人もいると思う。それはそれでしょうがない。好き嫌いはなんにだってある。受け入れろ、といっても人間だから簡単にはいかない。でも、それが、抑圧とか排斥という、極端な方向に行くのは、このことに限らずやっぱり私は嫌だ。なんで嫌なのか、具体的にいつも説明できなくて、すごくもどかしいのだけど、単純に「好き」と思っているだけのことを否定されたら単純に悲しいと思う。その否定が度を超したら、きっと怒りになると思う。