je suis dans la vie

ライブとか映画とか芝居とか。ネタバレ有り〼。

「ぐるりのこと。」@シネマライズ渋谷

橋口監督6年ぶりの新作。
待ってました!デビューの時から、だいだい大好きで、前作「ハッシュ!」は好きな映画ご本の指に入る。多分、私は、橋口監督の映画と、鷺沢さんの本と、シロップのCDあれば生きていけるかも(なんだそのセレクト)、ってなくらい。
リリーさんがもうおー、すごくいいです。女好きでアホで、気がよくて、でも結構シニカルな面もあり、厭世的だったり。カナオはリリーさんそのもの。
好きなシーンは、カナオが中華料理屋で子供をあやすシーン。こういうことできる人って、男女かまわず好きだ!
あと、夫婦のなにげない会話やしぐさが、いちおー既婚者としては、あるある〜!と思ってしまう。カナオが翔子に「バカ!」って言われて、「バカっていうな」って淡々とつぶやくとことか、ケンカするとことかでいまいち意思疎通がずれてたりするとことか。
あと、翔子がウツになって、お米といでる途中で放棄したのとか、あれは分かるなー。料理って工程が大事なので、途中でやめられないものほど投げ出したくなる時がある(私だけか?)。その後、違うシーンで、カナオがお米といでるシーンがあったり(あのとぎ方は間違っているとは思うが)、相変わらずちょっとしたシーンがリンクしてて、細部細部が行き届いてる。
橋口監督の作品は、完全なもののもつ堅苦しさはなく、ほどよく整えられた庭でくつろいでいるような感じがする。雨も降るし、虫も来る。でも花も咲けば鳥も鳴く。
ハッシュ!」では、家族の存在・構築というものにとことん焦点をあてて、今作では家族になった後の経過に話を持ってきている。誰もが、とは言わないけれど、大多数の人が愛情を求めて、家族や連れ合いや、もしくは自分の場所を求めている。でもそれが手に入ったから、いつもいつも幸せなわけではないし、苦しい事も半分くらいはあるだろう。カナオと翔子も、「乗り越えた」というにはあまりに日常をただ生きてきただけだし、実は人生は淡々と過ぎている。二人は途中で降りなかった、やめなかった。ただそれだけ。何かを手に入れたり、失ったり、繰り返して。一緒にいることが、ただ当たり前な夫婦。
カナオが法廷画家という設定なので、90年代のバブル以降に起きた事件の裁判風景が出てきます。これがそれぞれ短時間なのに圧巻。被疑者役や被害者家族の人はよくやったと思う。橋口組常連の片岡礼子さんの演技にはぞぞっとした。新井君はすげえ〜、それを受けた佐藤直子さんもすげえ〜。
秋葉原の事件の後だっただけに、いろんなことを思った。ただ当たり前に生きていく事が、どうしてこんなに過酷な世になったのか。人は幸せになる義務があり、不幸になる権利があるという。でも、そんな権利はくそくらえだと言いたい。もう十分じゃないか、まだ足りないのか、とあてもなく問いかけたくなる。