je suis dans la vie

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国際ドラマリーディングフェスティバル「オクシダン Occident」(仏2006)@川崎市アートセンター/アルテリオ小劇場

40代の男と女、彼らは自宅の部屋で二人だけの儀式のように、辛辣な言葉を果てしなくぶつけ合う。それはまるで死のダンス。そこに浮かび上がるのは酒・暴力・セックス・アラブ・ユーゴスラブ・白人至上主義・移民など現代のフランスが抱える解決策の見えない問題の数々。自らが生きるフランスの“今”を冷徹にみつめた注目の作家レミ・ドゥヴォスの最新作。
3/20(木・祝)14:00開演
作:レミ・ドゥヴォス Rémi De Vos
翻訳:山田ひろ美 
演出:夏井孝裕(reset-N)
出演:金田淳、原扶貴子(KAKUTA)

川崎市アートセンターアルテリオ小劇場オープニング記念作品。色々な国を取り上げており、今回はフランス。
舞台には、椅子が2つ客席を向いている。椅子は微妙な距離で離れており、それぞれの後ろに、長い蛍光灯が斜めに置かれている。ちょうどVの字のように、暗闇にふわあっと浮き出ている。まだ役者のいない舞台に、右側にDJブース。ビール(?)の瓶の2−3本並んだそこにいるDJは演出の夏井さん。音楽は、フレンチテイストなクラブミュージック。始まる前も、芝居中も音楽はそこから選び出されている。なかなかいい演出だな、と思ったら、夏井さんは普段DJもやっているらしい。雰囲気も、蛍光灯の使い方とか、フレンチっぽいというより、三宿あたりの小さなクラブの雰囲気に似ている。
さて、レミ・ドゥヴォスという作家の出世作だそうで、なかなかにエキセントリックなテキストでした。日本では始めての上演。3日間の練習の割に、完成度高し。これは、夏井さんが化庁新進芸術家海外留学制度でフランスに留学し、帰国して間もないというのは大きいのでは。現代のフランスの空気が生々しく伝わってきました。素晴らしいライブ感。
演出も、役者は座ったきりで、蛍光灯のうすぼんやりとした光以外は特に何もない。けれど、譜面台に置いているテキストの紙を二人がそれぞれに、もしくは同時にバサッバサッと床に勢い良く放って行くのが、二人の殺伐とした感じはっきり出していて、単調になりがちなリーディングのアクセントになっていた。放り出し方の強弱なんかもその争いの強弱につながっていたり。シンプルで、それでいて抑揚のあるリーディングになっていた。(でもあまりに内容がシモネタで殺伐としているせいか、途中でお年寄りの方が帰って行った・・・。日本の方には強烈かなあ・・・)
内容はひたすらに、夫婦がののしりあうだけ。それがまた容赦なく救いのない割に、小気味よさやユーモアさえある。夫は酔って家に帰ってくると、妻をいきなりののしる(ほぼシモネタなので書けまへん)。妻は「なんなのよ!」と怒ったり、スルーしたり、嘲ってみたり。でもうまい具合に夫の暴走をコントロールしているようにも見える。でもどうしようもなくなって、夫に「別れて」と真剣にやっと言ったと思ったら、夫に「別れたら殺してやる!」と言われ、じゃあいいや〜、とあっさり引き下がるし。一応、夫の友人のアラブ人のモハメッドが話のネタに出てくることが多く、人種問題について二人が話す時のコアになっているのだけど、夫が気にしているほどには妻は気にしていないので、割とスルー。なので、あんまり人種問題が!という風に社会的問題作でもなくて、バイオレンス風味なフランス風どつき夫婦漫才・・・という感じか。あまりにシニカル&スタイリッシュではありますが。
この作品、説明があまりないので、二人のバックグラウンドはもちろん、なんで人種問題に夫が異様にこだわるのか。何故夫はウツっぽいのか、夫は物書きだったらしいのだけど、今は無職みたいだし。そしてどうやって生活が成り立っているのか、そもそも二人はなんでこんなにケンカしてるわけ?などなど謎がいっぱいです。
私が気になったのは、この夫、暴力は振るわないのですが、「お前の顔を風呂場の壁に叩きつけてやる!」「シャワーで首を絞めてやる!」「風呂へ来い!(暴力を振るってやる)」と、何故か風呂場で暴力を振るいたがります。何故。掃除しやすいから?それとも風呂場が一番広い部屋なの?最近のフランス事情なのかしら。
あと、最後の方で、「海が見たいわー」「そうだねー」と疲れ果てた二人がちょっと和むのだけど、夫がせっかく「港に船を見に行こう」って言ったのに、妻が「船はいい、海だけ見たい」って言っちゃって、夫が「なんで船は見たくないんだ!」ってブチギレるのですが、ここは個人的に大うけでした。そこか!キレポイントはそこなのか!
アフタートークでは、この作品を選んだ翻訳の山田さん、夏井さん、俳優のお二人が出席。お客さんも交えて、なかなか盛り上がったセッションでした。4人もこの作品は、なかなか分からない面が多く、でもそこをあえてぶつかって、そして楽しんだ感じを受けました。
夏井さんは敢えてディープなつくりにしたそうですが、ユーモアもある作品だからその方向で演出もできそうとおっしゃっていました。ぜひぜひ、再演してほしいです。