je suis dans la vie

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こまつ座第八十一回公演「私はだれでしょう」@紀伊国屋サザンシアター

無事見てまいりました、こまつ座井上ひさし新作。
11時に母と待ち合わせて、高島屋で昼食。1600円の親子丼は美味でした。鶏づくしで、スープに始まり、サラダと煮物もついて、値段はそれなりだけど中身充実。夜はお高そうななので、ランチに来ていい感じ。
さて、おなかもふくれて観劇。初日が(案の定)遅れてしまったという本作ですが、いやはやそんなことは微塵も感じさせない完成度の高さとパワー。井上さんすげえや・・・。何がすごいかっていうと、全部であって言葉にしにくいんですけど、やっぱり台詞のうまさかなあ。俳優さんもそりゃもちろん素晴らしいんですが、脚本がすばらしいと、役者がその言葉を発するとキラキラ光るんだね。緊張感がもっとあるかな?と思ったけれど、役者さんもほどよいリラックス感があって。古くからの目の肥えたお客さんを相手にしてるというのもあるのだろうな。きっと、何度もあった大変な時を、井上さんとこまつ座ファンは乗り越えてきて、今この作品があるのか?と言ってはおおげさだろうか。この台詞たちは、作家のものであって、観客のものでもあるのだなあと感じる。
北村君はまっすぐで、若々しい青年役。こういう前時代的ともいえる、明るい性格の青年をやるのは、実はお家芸。ではあるが、最近はその中に、もっとどっしりとした軸がみえてきた。役について、自分なりに解釈をつけ、台詞にないリアルな肉付けをしている。狂気のある、刹那的な青年役もはまるけど、大人の役者になってきたなーと・・・。そういや、母はお父様の北村和夫さんのお芝居を、昔何度も見ているのだけど、「ますます声もしぐさもお父さんに似てきたわねえ」とのこと。親子だから当たり前だけれど、比較するのでも模倣でもなく、そういう意味でも北村君の今後が楽しみ。
内容は、終戦後のNHKが舞台。尋ね人のコーナーを担当している部署に、記憶を失った男がやってくる。まだGHQの管轄であった頃の放送局が抱える問題、個々の想い、明日への希望。その中から、自分をみな探り、みつけていく物語。
みなさん魅力的で素晴らしかった。声も動きも軽妙で、真ん中にいると皆が微笑んでしまうような川平慈英さん。台詞回しも素晴らしく愛らしい梅沢昌代さん。二つの国籍を持ち、自分のアイデンティティを貫こうとする難しい役をさらりと演じた佐々木蔵之介さん。清涼剤の役目を果たした前田亜季ちゃん。全体をしゅっと締めつつ、いいグルーヴを作る大鷹明良さん。
しかし、今回、ああいい女優さんになったな、と注目したのは浅野ゆう子さん。さすが立ち姿は素晴らしく、ぴちぴちではないけれど、崩れていない腰や足のライン(スーツのスカートのはきこなしはさすが)。見た目じゃないとは言っても、やはり人前に立つ役者は華がなくては。大女優、という貫禄ではないけれど、きっぱりとした男前の女性役がはまっていい感じ。年を重ねて、ずっと芝居を続けてきたという蓄積が見えた。
北村君もだけど、普段の生活の積み重ねや、決して波乱万丈でなくても、それなりに苦労したりという感じが、地味ながらも出汁のように出るものだなと。技巧的で、エキセントリックな芝居も、日常を忘れて面白いけれど、普通の人を演じると、その役者さんの素材が生きてて面白い。