je suis dans la vie

ライブとか映画とか芝居とか。ネタバレ有り〼。

もろもろ読了

模倣犯(五) (新潮文庫)
内容はだいたい映画で知ってたのだけど、面白かった。やはり、宮部みゆきさんは、人間の描き方がすばらしい。生き生きとして、地に足がついている。どの人間も多面的に描かれ、かといって中途半端にならない。きちんと悪は悪、善は善、のすみわけをしているので、読後感も良い。
特に、被害者の立場・感情について丁寧に描かれている。犯罪に限らず、何らかの「被害者」の立場に立たされた人(勘違い・思い込みによる被害者意識は別として、物理的・具体的な被害を受けた人)というのは、同情されたり心配されたりすることでさえ「想定外」のことなのだ。自分がその立場にあることに、慣れるということがない。真一はもちろん、関わった滋子や周りの人たちも、ある種の「被害者」ではあるが、ラストでそれぞれ何らかの決着を得る。家族を失った者、失いかけた者が新たな道を探そうと歩き出す。しかし、その中で、一番魅力的で人格者であった義男だけが「終わっていない」と慟哭する。胸に痛く刺さるシーンだった。悲しみや苦しみは、やはり何があろうとも癒されることなどない、決して。それだけに、要所要所で発せられる義男の言葉は、誰よりも重みがありシンプルだ。説教臭くなりすぎず、自分の歩で歩き続けた人間の、真実の言葉。真一に語る言葉は、フィクションでありながら染み入る。

江國さんの文章は、とても淡々としているようで、実は肉感的だ。よく研がれたナイフが、血の滴る肉を裂くような。けれど、そのナイフは映るほど光っているので、その文章に曇りはなく、簡潔。
そして、とてもうちのめされる。具体的に、何に、というのではないけれど、自分でも忘れてしまっていた記憶やら、感情やら。麻薬のような喪失感を思い出させる。川上弘美よしもとばななと同じ、岩館真理子的世界ではあるのに、もっと悲しくなる。サガンを読んだときも、こんな感じだったかも。
「ぱかり」「ぐんなり」など、やわらかい音も、すんなり耳に入るが、べっとりとはりつくような親密さ。この人の文章は怖い。