je suis dans la vie

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金森穣 「no・mad・ic・project〜7fragments in memory」@アートスフィア(2005/02/27)

昨年、朝日舞台芸術賞を受賞した、新進気鋭のダンサー、演出家、振付家。金森穣。
2年前に好評を博した作品集の再演となる本作。再演、ということ自体珍しいそうなのだが、曰く、時間が経って、同じ作品でもまた違うバイブレーションを持った別の新作、という意気込みであるらしい。
金森さんを始めて見たのは、以前にWOWOWで放送した行定勲監督作品「カノン」を、草月ホールで一日だけ上映した際のイベント。作品のイメージで、生演奏に合わせて金森さんが作った3人の男女の恋情の踊り。ただ目に映る動きの美しさだけではなく、感情やシチュエーション、台詞のない芝居のようだなとひきつけられた。この日の7作品も、ひとつひとつに意味が深く織り込まれて、観客を感覚の渦に迷わせた。
開演直前から、ロビーや客席に佇むダンサー。遠巻きに眺めながら、固唾をのむ観客。その瞬間から、巻き込まれ、混乱し、とまどいながら引き入れられていく。
演劇の要素が大きいし、自らの声をBGMにつかった作品「Voice」など、なかなか異端で、好き嫌いが分かれるように思う。暗い照明は集中力を必要とする。実際、一緒に行った友人はジャズダンスをやっているので、シュールな金森ワールドに終始とまどいを隠せないようだった。ただ、技術的に素晴らしいことはこの上ないので、見るだけでももちろん面白い、とのこと。
私自身は、というと、意外とずっと集中して見ていられた。外国の映画を字幕なしで見ているような楽しさがあった。私は言葉をとても意識する人種だと思うのだけど、何か映像や場面、絵や場所、そういうもともとなにも言葉の介在しないものを「見る」のが好きだ。名前や説明のない人やものたち。多分、文字を追うより、委ねやすいのだと思う。そして、後で意味や、隠れた主題を想像したりする。言葉は遅れてやってくるものだ。これは「Voice」の金森さんの声の言葉たちと重なる。
私はダンサーではないので、巧いのや美しいものは単純にすごいなとしか見られない。だからかもしれないが、踊りとしては特異な、金森ワールドの濃い作品が心に残った。
「L」や「Out of the earth...from heaven」では、近づいたり離れたりする二人の心。最近の自分の心境とも重なったのだが、人は決して交わることがない。でも、触れたり、突き放したり、波のように繰り返して関係を始め、築き、終わらせ、また戻る。他の振り付けでも、そういうのが多い。溶け合うほどにからみながらも、悲しいかな、体は一体となりそうでならない。おそらく、心も。それは諦めではなく、当たり前のことであり、人は触れて離れて、ただくり返し確かめる。その動きこそが真実美しい。そのことに気づく。
「Under the marron tree」は女性の孤独。意味を追えば、人によって変わるし、正解はない。正解がない複雑さにとまどいながら、私は子供の頃を思い出していた。両親が出かけていた休日の昼間、弟とダイニングのテーブルや椅子を倒して、シーツをかけ、小さな要塞を作った。やったことがある人も多いだろう、子供の遊び。世界をつくるという遊び。宇宙へつながるおもちゃの空間。時間も言葉も人もいない、孤独な懐かしい思いだった。この作品を、金森さんは二十歳の時に作ったという。どんな思いで体を動かしたのか。そして何を見て、誰を想っていたのだろう。

金森さんは見た目、サッカーでもやっていそうな爽やか青年なのだが、ひとたび踊りだすと、その筋肉隆々の見た目に反して、しなやかで、性別も種族も分からない動物になる。
アフタートークでも、なかなか不思議なテンションの話しぶりだった。落ち着いてハキハキと話す。「僕話すの早いですか?」と途中気遣ったり。話し方も踊りと同じ、しなやかでスピーディ。そして、自分の言葉と世界を確立している。質問で「新潟で活動する事に不安は?」というのがあった。「どこにいても自分は自分の世界をつくるだけ」という自信と確信に満ちた想い。おごりでも自意識でもなく、ただ自分で前へ進む道をつくる人の強さを感じた。
ただのダンサーでも、ただの振付家でも、演出家でもない。金森穣というクリエイター・・・それも違う。金森穣という世界をつくる金森穣・・・。音楽、映像、光、言葉、イメージ・・・。言葉はやはり遅れてやってくるようだ。どんなものよりも速く、柔らかに溶け込んでいくものに、名などつけられない。

ひとつ印象的な写真がパンフにある。篠山紀信が写した金森穣。踊っている姿ではなく、何かをじっと見つめ、半分開かれた唇からは言葉が発せられそうな瞬間。「見る」という仕草はとても情熱的でエロティックだ。そして、その瞳に何が映っているのか知りたいと思わせる金森穣は本当に美しい。