je suis dans la vie

ライブとか映画とか芝居とか。ネタバレ有り〼。

「ラヴ・レターズ」@PARCO劇場(2004/12/06)

多くの俳優さん、女優さんの組み合わせによって、演じ続けられてきた名作。恥ずかしながら、初見。何故、重い腰を上げたかというと、最近、俳優・北村有起哉にぐぐっときてましてねえ...。あの手の雰囲気には昔から弱いンです。
幼馴染みのアンディとメリッサの手紙のやりとり。その朗読劇。幼い頃から、50を過ぎる老いた頃までの、二人の言葉の「交歓」。近付いたり、離れたり、そしてお定まりの男と女。
ありきたりな、どこにでもいそうな二人だけれど、「手紙」を通して特別な関係でいた、というのが見どころ。言葉は、もしかしたら、下手なセックスよりも人を心地よくさせる。その魅力的なツールを、二人は一生かけて使い尽くした。
北村君は赤茶の革っぽいスーツに緑のブーツとネクタイ。田中さんは黒のゆったりしたロングスカートに赤い靴、赤と緑の幾何学的な模様の入った上着。椅子は田中さんがエンジ色、北村君が緑。クリスマスらしく、可愛らしい装い。
北村君はなにがいいって、声がいい。少年の頃のつたない話し方、青年になり、少しずつ大人になり、狡猾で重い荷物を背負ったアンディまでを細かく、声で演じていた。前半は、二人の間に置かれたテーブルに置かれた水をしきりに飲み、ハンカチで汗を拭いていた。休憩の時に舞台の近くに行ったら、クタクタのハンカチが椅子に置いてあった。緊張か、いや、多分高揚していたのだろう。アンディの役に入り込み、言葉がだんだんと熱を帯びていく。ああ、これだ。私が北村君から目が離せなくなった理由。静かに少しずつ、熱を発して、膜を張って。
後半の北村君は、動から静、そしてまた動。少年の心と、大人のアンディとを、浮遊するように迷い続けた。
田中さんは、終始、可憐だった。気の強い、奔放で感情的なメリッサを、少女のように無邪気ではかなく、優しい生き物として見せていた。北村君がうまくリードしていたようにも見えるが、田中さんがうまく寄り添っていたのかも。舞台で二人は恋をしていたのだから、当然かもしれない。何通りものアンディとメリッサが、この舞台の上で、2時間あまりの恋を一生懸命にやりとげてきたのだ。
一幕の終わりで、二人はそれぞれ背を向け、両そでにはける。その時、北村君がちらっと田中さんをみやった。カーテンコールでは、二人で照れたように手をつないで同じ方へ、二度目の時は北村君が肘を出し、二人が腕を組んで、帰って行った。
終わってから、苦しくて、喉の奥で涙がつまってるみたいだった。心臓がつかまれたみたいに、本当に苦しかった。心はやっぱり胸の方にあるんだ、とか思ってみたり。帰りの電車で、原作本を開きながら、二人のことを想った。実在しないアンディとメリッサに、幸せを祈った。
私はこういう話が好きだ。ただ、悲しいだけじゃなく、ただ恋するのではなく、男とか女とか柵を乗り越えて、深く深く結びつく。できればハッピーエンドがいいな、と思いながら、やっぱりこれはハッピーエンドなのかも、なんて少し切なくなる。そんな話。