je suis dans la vie

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「喪服の似合うエレクトラ」@新国立劇場(2004/12/3)

母と娘、父と娘、夫婦、姉と弟。
ギリシャ悲劇をモチーフにした、南北戦争直後のアメリカの家族の物語。三幕、3時間超の大作だったが、時間を気にさせない役者陣の深さ、濃さ、厚み。もちろん、栗山民也さんの演出は、真正面から強く投げ、なおかつぐいぐいと引き込む。新国ならではの美術セットも圧巻。
母と見に行ったのですが、母娘の愛憎が根底にある話なんで、まさか気まずくならんかね〜と思ってたのですが、大丈夫でした。というか、お互いに視点が似ていた部分もあったり、違った部分もあったりで、あーだこーだと話せていいコミュニケーションになったかも。
とにかく、母役の三田和代さんが素晴らしかった!一幕と二幕は、主演は三田さんと言っても過言ではない。歴史のある家の母と妻という立場より、愛人との人間味ある自分を選ぶ所は、確かに愚かなんですが、女としてシンパシーを感じました。こういう場合、娘役の大竹しのぶさんの方に気持ちが行くんでしょうけど。一幕の母娘の丁々発止のやりとりは、大竹さんは少し弱かったかも。父親に異常な愛情を持つ、という部分は分かるんですよ。私、自他共に認めるファザコンだし。でも、娘が愛していたのは父親を通しての「家」だったんだな。そこがイマイチ来なかった。それは多分、立場というよりは、あの時代のアメリカ人ならではの考えもあるんだろうな。ああいう状況だったら、母に出ていってもらって、お父さんの愛情を一人占め!っていう方が普通のような(普通なのか?)。
母は、終始三田さんを誉めていて、「夫の寝床を抜け出し、呼び止められて振り向いた時のタイミングが絶妙」などとマニアックな事を申していました。
愛していない夫への嫌悪感、息子が帰ってきた時のとまどい、愛人の死を感じとっている時の憔悴しきった表情。かなり前の方の席で表情までよく見えた、というのもあるのですが、全体から発せられるリズム、感情のうねり、シーンごとのメリハリ、完璧でした。そして、決して技術やキャリアだけに頼らない情感。
大竹さんも素晴らしかったんですよ。でも、三田さんがそれ以上に凄かったというだけで。比べてしまってはいけないのですが、三幕で弟(堺雅人)に後ろから抱き締められて嫌がる大竹さんと、一幕で夫に後ろから抱き締められて嫌悪する三田さん。役の立場や感情の違いもあるのですが、「本気で嫌がってる」と思わせたのは三田さんだったな。
でも、あの娘役は他にできる役者はいないんだよねえ。三幕になってからの娘の心の動き、激情は、大竹さんならでは。どんどん破滅にまっ逆さまに堕ちていく女。むしろ爽快ですらありました。
堺さんはかわいかったわ〜。でも、あんな弟いやだ〜!両親・姉と弟って、うちと同じ家族構成なんだけど、自分の弟があんなだったら蹴飛ばして追い出すね!でも、母がいなくなったら姉に、なんてそんな事ってあるのかい...。でも、あの姉もひどいよなあ。自分でそういう方向に持っていったの分かってるのに、甘えてきたら「いや〜!」とか拒絶すんだもん。あの時ばかりは弟くんが可哀想でした。
栗山さんは「ハローアンドグッドバイ」に続き、姉弟の愛情&家族の肖像ものでしたが、なにか思うところあったのでしょうか。個人的には好きです。自分と弟には決してありえない世界なので。
終演後の母の感想は「なにごとも、真実を追求し過ぎない方がいいってことよね〜」でした。さすがです。参りました。年の功。人生の先輩。
私は「愛は片思いと勘違い」って思ったのよね。そして「家族とは演技のもとに成り立つ」と。うち?うちですか?うちはねえ...まあ適当にやってます。