je suis dans la vie

ライブとか映画とか芝居とか。ネタバレ有り〼。

「春夏秋冬そして春」(2004/10/15)

MIOさんに誘われ、試写会へ。どんな内容かあまり知らずに行ったら、とってもとっても美しい景色に出会いました。ネタバレあるので、見る予定の方は注意をば。
まず映像の美にしょっぱなから魅せられる。山奥の湖に「浮いている」寺に、年老いた和尚と小さな男の子が暮らしている。その寺が、まるでこの世のものではないかのような静けさ。そして自然、四季の移り変わり。これだけでも見る価値あり。
そして物語はというと、春夏秋冬を、一人の男の人生の流れに見立てている。

  • 春・・・無邪気で残酷な幼少期。時折、和尚と舟に乗って湖のほとりへ行く。そこで魚と蛙と蛇をいじめて楽しむ(このいじめ方がほんとに無邪気で恐ろしい)。しかし、和尚に命の重さを教えられ(この教え方も、笑いの中にも「なるほど」と思うところ多し)、初めて業を背負う。
  • 夏・・・溌剌とした少年期。心を病んだ少女が、寺へ療養に来る。二人は恋に落ち、和尚の目を盗んで逢引を重ねる。ある時、舟で裸で寝入ってしまう。そして、寺まで流されてきた舟を和尚が見つけてしまう。和尚は少女の立ち直った姿に、「どんな薬もかなわぬ」としながらも「愛は執着を生み、執着は殺意を生む」と少女を俗世に帰す。しかし、少年は仏像と鶏を抱え、少女のもとへ。
  • 秋・・・殺伐とした青年期。ある日、和尚は猫をリュックに入れて買出しから帰ってくる。お菓子を包んだ新聞紙に、青年となった弟子の写真を見つける。「30代男性、妻を刺殺、逃走」。和尚は青年の着る衣服を縫う。果たして、青年は寺へやってくる。その目はギラギラと憎しみに燃えて。和尚は般若心境を寺の外床に書き、「怒りを静めよ」と、妻を刺したナイフで字を彫るように命じる。刑事が追ってくるが、「朝までに彫り終える」言う和尚。夜が明け、刑事に連れられ舟に乗る青年。その目はもう穏やかになっている。そして秋の終わり、和尚は自分の死期を悟り、ある決意をする(これがまた壮絶)。
  • 冬・・・中年期。氷の張った湖を渡り、誰もいない寺へ、刑期を終えた男が戻ってくる。和尚の墓を氷で作り、少しずつ生活を整えていく。和尚の残した気功の教則本を見つけ、冬の日差しの中で体を鍛える。ある時、顔を隠した女が、赤ん坊を抱えやってくる。女は夜中に子供を残し去ろうとするが、溶けかけた氷の穴に落ち死ぬ。
  • そして春・・・赤ん坊は少し大きくなる。その姿は、男の幼少期に瓜二つ。

和尚の言葉がシンプルだが心に染み入る。かといって説教くさくも無い。俗世の醜さも、人の心の愚かさも、すべて受け入れて、包み込む。赤ん坊を抱えた女は誰だったのか。男の娘?母親?何故顔を隠していたのか。そして、和尚と男の関係は?それらは明らかにされない。流れるように変わる季節、人生。その素晴らしさも美も、すべてはいろいろな事の積み重ねで成り立ち、繰り返されていく。
「韓国の北野武」と評判のこのキム・ギドク監督(映画でも中年期の男として登場)、確かに「Dolls」を思わせる映像美が素晴らしい。ヨーロッパで大きな評価も受けたそうだ。しかし、彼の内宇宙にはきっとそれだけに留まらない可能性を感じさせる。
最後に春がきて、韓国の桜、「ケナリ」が映っていた。鷺沢さんの愛した花。鷺沢さん、あなたの愛した国に、素敵な映画が生まれましたよ。