je suis dans la vie

ライブとか映画とか芝居とか。ネタバレ有り〼。

「幼な子われらに生まれ」重松清

幼な子われらに生まれ (幻冬舎文庫)
二度目の妻とその連れ子の二人の娘と、ごく普通の家庭をつくろうとしている37歳の男が主人公。妻の妊娠を境に、崩れていく家族のかたち。暴力を奮っていた「本当のパパ」に会いたいという長女。自分を本当の父親だと思っている次女。自分に頼りきりの妻。学者として成功した前妻。溌剌とした前妻との娘。
主人公の男はとても分かりやすい。すべて仕方ない、流れに身をまかせて、その中で自分の居場所を見つけていく。とても平凡で、つまらない人間だ。いい父でいよう、いい夫でいようと考え、できるだけ正しく、自分の器の範囲内で感じ行動する。いい人でも、悪い人でもない。偽悪的にならないように、注意深くさえある。
けれど、彼がそうしようとすればするほど、読んでて可哀想になっていく。
何故なのか、はっきりと分かったのは、前妻の「あなたは理由は聞くくせに、気持ちは聞かない」という台詞だった。大事なところを、いつも読み間違えてしまっている。男は後悔し始める。もう一度、赤ん坊から始められたら、ギターばかり弾いていた少年時代に戻れたら。
男は迷いながらも、自分にとっての幸せの形を見つける。なにも知らない次女に、前妻との娘を、そして次女の本当の父親を、「パパのともだち」と紹介する。男は「自分の一番近くにいる人を愛する」それが自分の幸せ、だと思い始める。すべてをうまくいかせることはできなくとも、少しずつ解決していこう、と。
キャロル・キングの名曲「君の友だち」をうまく引用している。あなたがつらいとき、私の名を呼んで、いつでも私はあなたのもとへ駆けつけるから…。私はこの歌を歌った事がある。自分自身がつらい時、よく聞く歌でもある。実際、この歌のような事にはならないけれど、私には心の支えとなる友がいるし、できることならその人たちにも、私をその様に思っていてほしいと思う。そう考えていられることが、私を真っ直ぐ立たせてくれている。人にはそんな、道標のような自分だけの芯の想いがある。
読みながら、鷺沢萠さんの「ウェルカム・ホーム!」を思い出した。血のつながらない同士で家族を作る物語だった。「おかえりなさい」と言ってくれる人があなたの家族。それが鷺沢さんの祈りだった。重松さんは鷺沢さんと交流があったという。二人で家族について話したりしたこともあっただろう。
ニュースを見ていて、いつも気になるのは、自分の子供や家族を殺してしまう人たちの話だ。そこに至るまでに複雑な物語や想いがあっただろう。だけど、「何故」と問わずにはいられない。離婚が増える中、複合家族は当たり前になっていくだろう。複雑になっていくのならば、せめて幸せの形もいろんな形に枝分かれしていってほしいと願う。

Tapestry

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