je suis dans la vie

ライブとか映画とか芝居とか。ネタバレ有り〼。

大人の絵本Vol.3『ZOU』@SPACE EDGE


井上真鳳さん率いる大人の絵本の第4回公演。
丘の上の、海の見える小さなラジオ局。そこでDJとして働く主人公・タイチ。日々日常の中、サーカス団の象の檻が何者かに爆破され、象が街中へ開放されてしまったというニュースが入る。そして、次々と起こる象の開放のニュース。タイチは犯人に何故かシンパシーを感じ、そのニュースを追おうとするが、常識、社会の目、日々の平穏という壁が立ちはだかる。その中で、色々な人の言葉を聞き、タイチは迷いながら、自分の道を見出してく。
井上さんの舞台を見るのは3回目。前回の一人芝居の際に感じた、とてもまっすぐで力強いはっきりとしたモノを感じた。ともすれば、張りつめて、自らの衝撃で崩れてしまいそうな。そこが、また魅力であり、個性なんだろうか。私自身、よく人に「ど真ん中ストレートの剛速球投手」と言われるので、主人公の気持ちは、なんだか見ていて痛々しいほどだった。うーん、はたから見たら一生懸命な人って「不器用な人」になっちゃうんだよね。でも、そのいろんな苦難を乗り越えて、強くなって、自分の道をしなやかに歩く能力を身につけて、周りのことも大切にできたら、こんなに素晴らしいことは無い。調子のいいスポンサーも、裏社会に生きる刑事も、平穏を望む上司も、すべて受け入れる強さを持つこと。そして、自分の中の象を開放してあげる。タイチはこれからも大変だろうな。でもそれも選んだこと、望んだこと。
ジョンとヨーコの言葉や、マーヴィン・ゲイの”What’s goin’on”が象徴的にちりばめられている。理想は理想なのかもしれないけど、理想を掲げなかったら、やっぱり前に進めないような気もするんだよね。
深読みかもしれないのだけど、近頃LIVE8があったり、サミットがあって、ロンドンのテロがあって、こういうテーマはまた違った側面を見せる。演劇というのは、音楽とは別次元で、問題提起していく力をもつもの、もたなければいけないものなんだろう。
物語の本筋にインサートされる、登場人物のエピソード、舞踏のような動きで現される心の動き。構成が面白いなと感じた。 いくつかの形の違う箱を組みかえて、シーンを変えたり、光と影、映像でシンプルな空間に奥行きや変化を見せて、アイディアいっぱいだった。携帯電話や、マイクなど、小物については手作り感があり、可愛らしい。
井上さんの一人芝居の時も思ったのだが、ちょっと村上春樹のイメージがある。全体的な雰囲気もなんだけど、話とかエピソードの描き方が。そんなに多くは村上春樹を読んでないのだが、ファンタジーな世界と、シニカルなのに少年っぽいあどけなさ、というようなものを今回も少し感じた。
終わった後に井上さんにもご挨拶。さすがにお疲れのご様子でしたが、一生懸命な人を見るのは、こちらも元気付けられます。スタッフ、出演者のみなさま、おつかれさまでした。また機会があれば見に参ります。