あらすじ(公式サイトより)
16世紀末。
イングランド北部にたたずむフォザリンゲイ城に幽閉されている、スコットランド女王メアリ・スチュアート(長谷川京子)。
ロンドン・テムズ河畔のウエストミンスター宮殿の玉座を支配する、イングランド女王エリザベス一世(シルビア・グラブ)。
二人の女王を巡って交錯する人々の思惑と共に、最終章へ向けて、運命の歯車が回りはじめる。
注)ネタバレあります。
森新太郎さん演出なので気にはなってたのですが、決め手がなく保留していた作品。ちょうど「ヘンリー八世」を読んで、さい芸の舞台も見に行く予定になったので、その流れで見てみようかと。
全体的には見応えがあったのですが、色々感じることあり。
森演出はやはり最後まで飽きさせずじっくり見せる。
セットがほぼなく、場所を特定できる最低限のものだけ(粗末な箱椅子、女王の椅子、流木)、真っ黒な床と壁は奥行きや空間感覚を感じさせない。
に対して豪華な衣装、モノクロベースではあるが光沢のある質の良い生地をたっぷり使った女王2人のドレス。男性陣の衣装もそれぞれ色味は地味でも素材は少しずつ変えていたり。
その分役者の力量がはっきりとしてしまう。
シルビア・グラブさんのエリザベスは、トゥーマッチともいえるヒステリックなエリザベスではあったけれど、森演出の特徴でもある緩急の妙を唯一表現できるキャラだったのかなと(緊張感のあるシーンを微妙に笑いに変化させる瞬間があるそれなのですが、あれは特徴と言っていいのか)。
どうしてもあの演出は演技力に幅や余裕がある役者さんじゃないと無理なので、そうなってしまったのかな。
思い切ってその「笑い」は切って、きちんとエリザベスの悲しくも冷静な生き様を見せても良かったのでは。そうすると淡々とした流れになって、このセットだと苦しいのかもですが。
バーリー役の山崎一さんとメアリの乳母ハンナ役の鷲尾真知子さんが安定の演技力。全員台詞量が多く話も難解な芝居で、その場その場を引き締める。全体の軸となり舵取りでもあるポジションをそれとは感じさせずこなす胆力。
わがままなエリザベスを受け止めるバーリー、メアリを抱きしめ悲劇を見届けるハンナ。この2人が影の主役。
長谷川京子さんは初舞台だけれどはまり役だったのでは。正直綺麗な方という印象しかなかったのですが、難しい台詞回しもかなり努力された感が。ラ行が苦手なのか時折リズムを抑えて話してましたが、それが良かった。まずは台詞を客席届けようというシンプルな意識が今回は功を奏したかと。声も歳の割に可愛らしいトーンなのですが、メアリの意識してないのに(ように見せているのか?)思わず男を翻弄してしまう魅力、可憐さを特徴づける武器に。背も高く、黒い衣装でも立ち姿に存在感があり、どの角度で綺麗に見えるか身を持って知っている強さが。
レスター伯の吉田栄作さんは野心的なズルイ色男が似合ってました。ベルばらのフェルゼンポジションですかね。バーリーとの対比がもう少しあっても面白かったかも。エリザベスはバーリーの方が根は好きなんだとは思う。史実では失脚させた後も戻してるわけだし。
メアリは美貌のあまり賢くない女王、エリザベスは政治力に長けた狂気の女王と対比してたけれど、どちらも男社会と政治と宗教、そして血筋に翻弄された女として理解しあえる部分もあったのではと思ってしまう。
史実にはない2人の邂逅は、結局メアリがエリザベスに溜飲を下げるだけな感じにも見えて、「実際エリザベスはメアリの処刑を後悔していた」という史実はどこへ?ってちょっと思いました。まああそこのシーンないと、ほんとに淡々としちゃうしメアリかわいそう!だけな話なんだが。
気になった点は、某役者さんの台詞回しがひどくて一幕ほとんど何言ってるか分からなかった。まず子音の発音が不明瞭。サ行のshとsの違い、タ行のtとchの違いがめちゃくちゃ。母音も途中ボロボロになってた。全員台詞量多いし、絶叫芝居な面もあるので早口になりがちなんですが、長谷川さんや吉田さんはその辺回避するように気をつけてたようなのでこの人だけ気になった。この方の芝居は前にも見たんだけど、顎が弱いのかなあ…。正直この人が今後出る芝居は見るのを躊躇したいくらいでした。いいとこもあるんだろうけど、全部打ち消されるくらいだったので残念。
あと気になったのは照明。事前に照明が…という話はTwitterで話題になってた。
真っ黒な床と背景で強い照明のコントラストで陰影深く、かと思うと薄暗い照明。ポストトークで森さんがサイドスポット多用したとのことなので、意識的だったのですが、エリザベスの演出も含めてトゥーマッチな印象も否めない。
でもこのセットだとこういう照明なんだろうな〜と。そしてこういう演出なのね〜と納得はしました。
全体的には森演出は本当に最後まで見せる力のある芝居。こんだけややこしい、難しい芝居をこちらの集中力をブーストさせてくれるくらいのものがある。良いとこも気になるところも、全て美味しくいただきました感がある演出。
ポストトークも見たので、それは別記します。