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ドキュメント風ドラマ「ヘンリー8世と6人の妻たち」

CSのスーパードラマTVで放送されていたイギリス制作の番組。全3話。

ドラマだが、時折プレゼンターのルーシー・ウォースリーの解説が入るドキュメンタリー風。ルーシーは現代の姿で所縁ある場所を訪ねる案内役を勤めつつ、ドラマ部分では宮廷の侍女となりまるで目撃者のような演出も(家政婦は見た!みたいな感じ)。

彼女は古代史・現代史の歴史家でもあるため、歴史的文書を調査するシーンなど説得力がある。

 

最近ヘンリー8世がらみの芝居や本を読んでたので、ちょうどこれは!と思って見ました。

 

整理のためのメモ。ヘンリー8世の6人の妻たちリスト。カッコ内は別離の理由と婚姻期間。

1.キャサリン・オブ・アラゴン(離婚、24年)

2.アン・ブーリン(処刑、3年4ヶ月)

3. ジェーン・シーモア(病死、16ヶ月)

4. アン・オブ・クレーヴス(離婚、6ヶ月)

5. キャサリン・ハワード(処刑、18ヶ月)

6. キャサリン・パー(生き延びる!、3年6ヶ月)

 

以下ネタバレです。

 

ドラマの1話と2話は、ほとんど最初の妻キャサリンアン・ブーリン

キャサリン役はちゃんとスペインの女優さんを起用。

それと衣装が豪華でさすが!コスチュームプレイはこうでなくちゃ〜。女性陣は肖像画から出てきたかのよう。装飾品、小物、家具、ロケ地も見どころ。

 

妻たちからの視点なので、さらにヘンリーがひどい夫に見える。

キング・オブ・モラハラ

シェイクスピアの「ヘンリー八世」ではその辺はっきり描いてないから若干もやもやしてたけど、このドラマのヘンリーはあまりにひどくて呆れた。

それでもキャサリンとは長く続いたのは、精神的な相性も良かったのか。夭折した兄の結婚相手だったのを、ヘンリーが気に入ってそのまま妻にしたとかいう説も。とはいえヘンリーはその頃まだ幼い。でももしかしたらヘンリーにとっての初恋だったのかしら、とか。

キャサリンは摂政もしたり、ヘンリーの浮気も大目に見たり、年上で賢く美しく懐も深く、ヘンリーにとっては楽な相手だったのかな。

しかし息子が産めなかったために、ひどい離婚のされ方をされるわけですけど。

この辺はヘンリーがローマカソリック教会からの支配から分離したい政治的思惑も大きかったのかな?と思ってましたが。アンへの熱いラブレターが歴史的文書として残ってたり、アンが愛人となっても7年もヘンリーに体を許さなかったのにヘンリーが待ってたエピとか、ただの色好き夫のわがままゆえだったらしい。

そんなアンも浮気の噂(ドラマの解釈では冤罪)を立てられ、ヘンリーがそれにキレて問答無用で処刑される。この時の告解を受けるのはトマス・クランマー大司教

その後の妻に対しても忍耐がないヘンリーなので、キャサリンってうまく操縦してた方なのかも。あと年取ってどんどん欲深くなっていったのかな〜。

3人目のジェーンはどこまでも忠実な妻。保守派が送り込んだ女性。3人目の妻からさらに政治的なからみの強い妻たちになる。

やっと跡取りの息子を産んだ妻というのもあるのか、産褥死という悲劇のせいもあるのか、ヘンリーは彼女の死を嘆き悲しんだそう。お墓も彼女の隣にしてる。でも「ヘンリーが飽きる前に亡くなった」というのがドラマの辛辣な解釈。

ヘンリーは賢い女性が好みなのに、結局その賢さに腹を立てている。家父長制度の強い時代ゆえとはいえ、どこまでもおぼっちゃま。

4人目はドイツとの同盟のために結婚したアン・オブ・クレーヴス。

彼女がすぐ離婚された理由が「肖像画ほど美しくなく醜く、あまり賢くもなかったのでヘンリーの気に入らなかった」というのが主な理由とされてたけど、ドラマでは「ヘンリーが太って歳をとって性的不能であったが、それを隠すためにアンのせいにした」という解釈は目新しい。

あまり英語も出来ず、英国王室の文化もよく知らなかったりで、ヘンリーと気が合わなかったのは本当っぽいけど、醜かったとか知性がなかったというのは実は少し違うらしい。

離婚の時はドイツとの同盟を盾に財産分与を受けイギリスでの地位も保ち「ヘンリーから生き延び一番勝利した妻」というのがドラマの解釈。結婚期間が短かったのが一番ラッキーかも。

そうそう、この結婚を策略し肖像画を美しく描かせたクロムウェルは、破談が原因で失脚。ウルジーからヘンリーにうまく鞍替えして生き延びたのに。

生き延びる、というのがこのドラマのキーワードの一つ。

5人目は幼妻キャサリン・ハワード。不義密通で告発されクランマーに尋問される。

性的に奔放で尻軽な王妃とされているけれど、彼女の当時の年齢(十代前半から中盤)というのを考えると、「判断能力のない未成年への性的虐待」だったからかわいそう、罪はない、というのがドラマの解釈。キャサリンの不義密通の相手の事をsexual predatorとしたり、現代の価値観で語るのもドラマの新視点。

この辺からヘンリーの描き方は「年老いた色ボケじじい」になってきて容赦ない(実際そうだったんでしょうけども)。

日本でやるなら年老いてからのヘンリー役は吉田鋼太郎さんも良いけど、渡辺謙さんもいいなあ。そして時の人の東出昌大を若い時のヘンリーに…とも思ったけど小物感あるので前述のキャサリン・ハワードの相手くらいが妥当かしら。

最後の妻は誰よりも賢かった王妃キャサリン・パー。上記のリストで「生き延びる」としたのは、彼女はプロテスタントの伝道をした異端で逮捕されるところをヘンリーを説得して逃げおおせている。

そしてヘンリーは死に、唯一の王子も夭折し、ブラッディ・メアリーの時代を経てエリザベス一世へ。

ヘンリーと妻たちが時には命をかけてあれほど望んだ男の後継ではなく、テューダー朝は女による治世で黄金期を迎えたとドラマは締めくくる。

がしかし、その後エリザベスは子をなさなかったので、エリザベスが処刑したメアリ・スチュアートの血が今の英国王室へと続くのですけれども。

恐ろしいわあ…。

目線が妻からで、現代のフェミニズム的観点もあるので最後の方はヘンリーがアホに見えてくるし、少し啓蒙的でもあったけど、ドキュメント風ドラマという斬新な演出ゆえか感情移入しすぎず偏りなく見られたかなー。