ストラトフォード・フェスの配信。今回はハムレット。(配信は終了、オンデマンドあり)
今は『ジョン王』配信中。こちらは7月9日まで。ストラトフォード・フェスは8月くらいまで配信あります。
KING JOHN
— Stratford Festival (@stratfest) 2020年6月18日
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ストラトフォード・フェスのシェイクスピアは全体的に戯曲に忠実で、大きな改編もなく安心して見られる。そのかわり解釈の深さが感じられるものが多く、ある程度はシェイクスピアを知らないと難しい部分も。勉強になります。
その中でも、ド定番のハムレット。俳優の演技が台詞回し、所作、すべて隙がなくしっかりした演出。内容が入っていれば英語にもついていけるし、集中して見られる完成度の高さ。
衣装は近現代的。女性は華やかなドレスを着ているのもあるが、男性は普段はスーツ。公式行事っぽいとこだけ軍服。
全体的にこの衣装のつくりがかなり仕立てが良い。ストラトフォード・フェスはいつも衣装のレベルが高いと思う(とりあえず配信7本見た限りだが)。ハムレットでは照明が全体的に暗めなのに、男性はモノトーンの色味の衣装でライティングが難しい配色。そこを白黒だけでなくグレー、同じ黒でも濃淡や素材感で照明に映えるようにしている。
特にハムレットは全身黒で、シャツ、パンツ、ブーツなど素材感を変えてるし、俳優のがっしりした体格からできるしわの光の当たり方まで計算されているかのようだ。特に上着がこってるなと思った。これはプールポワンという14世紀から17世紀の上衣を基としているようだ。プールポワンは鎧の下に着るもので防寒と防護服だったらしい。ともすると現代ならフリースかダウンのように見えてしまうが、素材感も光沢が綺麗だし、体のラインが綺麗に見えるように仕立ててある。黒系の服の良し悪しはとにもかくにも素材感(安物はより安く、高いものはそれなりに見える)なので、舞台衣装でこれをやってるのはすごい。
最近だと日本の森新太郎演出の「メアリ・スチュアート」も、照明が暗めでメアリの衣装が黒、男性らもグレー系で衣装にこだわってるなと思った。
照明が暗めで見にくいところも多いのだが、その分俳優の演技が引き立つのはメリット。ハムレットの独白もビシッと決まる。
ハムレットは真面目に暗く悩み苦しむのだが、狂うフリのところも真面目な演技なので奇抜すぎず、見ている側がハムレットとずっと同じ距離を持って見ていられた。
そのかわりオフィーリアの狂うシーンがかなり激情型で、リアリティがあった。父親の上着を羽織り狂い歩くのは父親への執着を思わせる。花を配るシーンは代わりに父親の形見を配る。レアティーズには愛用の時計、ガートルードには十字架、クローディアスには聖書?を投げつける。意味深な演出。
しかもこのオフィーリア、ぽっこりしたお腹をさするシーンがあり、妊娠していることを示唆していた。処女ではなくハムレットとは肉体関係があったことで2人の関係性の深さ、そしてそれが故の父親の死への悲しみが複雑さを増す。それぞれの関係性が具体的に描かれている。彼女の狂気が輪郭をよりはっきりとさせていてこの演出はよかった。
従来だとハムレットの孤独感と親子の関係性を主に描いて、恋愛、友情も主人公軸なものが主流だが、ひとりひとりの生活もよくみえる演出。それがとっちらからないで、点と点が線になる流れはよい。