※ネタバレあります。
お話のベースは西遊記である。天竺を目指す三蔵法師と悟空たちのお話。私の世代だと堺正章版(ガンダ〜ラガンダ〜ラ)、最近だと香取慎吾の孫悟空。あとドリフターズの人形劇版、手塚治虫の『ぼくの孫悟空』は大好きで何度も読み返した。日本人には割とお馴染みのお話である。
がしかし、今回は「現在の神奈川県に迷い込んだ三蔵法師一行』というパラレルワールド設定なのである。
前説で「神奈川県」に扮した成河さんが設定や話の説明を始める。全身白の地下足袋(風のスニーカー?)に鳶職風作業着で、頭に神奈川県のシルエットボードを載せている。「さすがに県を演じるのは初めて」と言っていたが、ヤンキーっぽかったのはイメージが古臭い感じもしたが。
中スタジオは平場だが、今回の舞台は真ん中に長方形の低い平台、その両脇に伸びる細い花道がある。そして平台の後ろに木製のコンテナ型の移動式の箱。これは扉が開くようになっており、もう一つの舞台や部屋などの空間として機能する。そのコンテナの両脇、花道と背面のスペースに楽器がたくさん置かれている。パーカッション類が目立つが、バンジョーや見たこともない民族楽器的なものも多い。背面には白い布(一部紙)がカーテンのように仕切られており、こちらは主に影絵に使われる。
お芝居が始まると黄金町の老舗映画館ジャックアンドベティ前で、空腹で行き倒れになっている三蔵法師(柄本時生)。J&B、私はよく行くけど県外の人よほど映画好きじゃないと知らないのでは。ていうか神奈川県民でも微妙。(ちなみに映画館から出てきた男(成河)が吹いている口笛は古いフランス映画『冒険者たち』のテーマ曲。名作)。
てな感じで冒頭からマニアックすぎるのである。
この後三蔵法師は散り散りになった弟子たちを探しに行く。その際、玉龍(佐々木春香)や沙悟浄(長塚圭史)を捕まえる役として静岡県iZooの白輪園長(菅原永二)が前半ずっと三蔵法師に同行する。白輪園長、横浜戸塚のアパートで逃げ出したアメニシキヘビを捕まえたあの人である。何でそんな人がと思うでしょうが、これがどうしてどうして。玉龍はヘビ、沙悟浄は爬虫類として認識され、あっさり捕獲される。菅原さんの大真面目とギャグギリギリの役作りで終始大爆笑。前半はほぼ主役でした。
玉龍は鶴見で女に化けて男を喰らっていたり、沙悟浄は綾瀬でウーバー配達員になってシングルマザーと同棲してたり、衣装や小道具も現代的なとこがあり、スマホを使いこなしコンビニ弁当を買う。弟子はいつのまにか神奈川の西の方でのんびり現代生活に馴染んでいる設定。その中で土地の伝承に絡めたり、ローカルネタを細かく入れる。
成河さんは10役こなす。道祖神として色々な人間に姿を変え、案内役として三蔵法師を導く。道祖神が化けてる時はポケットからフェルトの小さな道祖神を見せ示す。他にも空海やニノ宮金次郎や神奈川にゆかりある登場人物になり、物語の進行役として出ずっぱり。歌も歌うし、楽器も時々こなす。旅番組のナレーションよろしくである。
そういえば座席に行く途中、小さなお地蔵さんのセットが何体かあったのだが、座席に案内する道祖神だった。粋な演出
後半は横須賀でスカジャン刺繍職人になった孫悟空(菅原永二)と合流。戸塚の影取池で影を取られてしまって半死状態になった三蔵法師を救う冒険物語になる。
成河さんの七変化(10変化)、菅原さんのガッツリ熱のある役作り、柄本くんの安定感(お経の読んでる時の神々しさよ)、佐々木さんの長い手足を活かした華やかな存在感。長塚さんの沙悟浄の設定はネタが多く、かなり楽しんでいたように見える。ドレッドヘアでKAWASAKIのエンブレムが入ったジャケット(土地の川崎にかけたと後で気づく)のウーバー配達員ってさー!ちゃんとベジタリアン。河童なのにドレッドヘア。そこにプレデターネタも絡めるという。
演奏の角銅真美さんは一人で演奏を担う。あの楽器何?というのがいくつか。チューブ形状のをブンブン回してたのなんだっけ?
昨年、中スタジオで生演奏を使った演劇企画をいくつか見たが、このタイプの企画は続けてほしい。
そういえば猪八戒は?と気になるかと。猪八戒の役は舞台上に出てこない。その代わり、インスタ画像が白幕に映し出され、豚のリアルなかぶりものの猪八戒がインスタグラマーとして神奈川グルメを紹介している。しかも三蔵法師のツケで食べ歩く。これまた渋いお店セレクション。神奈川は豚肉がいろんな種類があるのだが、猪八戒がそれを紹介するのもシュール。ちなみにうちは普段は高座豚。みやじ豚とか湘南ポークもたまに他のとこ行った時に買う。
物語があるようなないような。そういえば天竺は行くのかどうするのか。しかし楽しいのである。演じてる側も楽しそうで、一緒にカナガワを旅してる気持ちになった。さしずめ「アド街ぶらり秘密のケンミンショー演劇」at カナガワ!である。旅が自由にしにくいご時世なので楽しさもひとしお。
神奈川でも横浜川崎という知られた地域でなく、西の方のローカルなネタが多いのも良かった。KAATのお客さんは地元の人も多いのか、それぞれ笑いのツボが違って面白い。小田原でめっちゃ笑ってる人いたな。私も神奈川に嫁に来て10年以上経ったが、だいたい分かったしかなり笑った。多摩川超えたら世田谷行っちゃうから西に行こうって流れも笑う。
長塚さんが芸術監督となり、神奈川を盛り上げるための企画。もちろんKAATのスタッフさんの尽力あってと思うが、東京出身の長塚さんが愛着を感じてくれているのがヒシヒシ伝わり、嬉しくなった。この後神奈川ツアー公演があるのだが、各地でまた地元ネタなども仕込むのだろうか。神奈川の人がKAATの活動をより身近に感じるきっかけになったら良いな〜と楽しみである。
中華街のランタンフェスは前日で終わっていたのだが、ロビーで西遊記のランタン展示があった。最後まで楽しく体験できた日。