je suis dans la vie

ライブとか映画とか芝居とか。ネタバレ有り〼。

『白昼夢』@本多劇場

しばし昨年色々あり、ブログお休みしてましたが、2020年見たものなど少しずつ補遺していきたい。

久しぶりの本多劇場。はて前回いつだったか、と考えたら2019年末の『神の子』以来。同じ赤堀雅秋作品。今回三宅弘城さんが目当てだったのだが、三宅さんも2019年11月本多劇場の『鎌塚氏、舞い散る』以来。全部久しぶり。

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客入れの音楽が、ちょうどここに来ていない期間のヒット曲。最大多数の心を掴んだはずのエモい歌詞が、ワンコーラスだけ細切れに流れて全く心に残らない。2020年だけでなく、今は消費したことすら忘れる時代ということですかね。

 

セットはおなじみワンシチュエーション、日本家庭昭和ダイニング&リビング。これ、雰囲気が伯母の家に似てて。ジャラジャラしたのれんとか、台所の窓とか。伯母は綺麗好きだったから、ニラの様な匂いも小蝿も一切なかったけど。でもきっと作中でも、亡くなった母親が生きていた時は、もっと清潔にしていたのだと思わせる。

話は今までよりもっと日常的で、突拍子もない設定がなくすっきりとすらしている。台詞、暗転から次のシーンへの展開など、より削ぎ落としている。引きこもりやリストカットや、個々の設定は確かに一般的ではないかもしれないが、ほぼこの家族と同じ構成だった知人を知っている。詳細は省くが本当にほぼ同じ。それだけに、全く珍しくもない話だけに、より役者の微細な演技に集中して見ていられた。


三宅弘城さん演じる長男は特にその「日常感」が強くうまく出ていた。陰と陽、そのどちらかではなく、薄皮一枚隔てた微妙ないやな感じがよく出ていた稀有な演出。
今までこのポジションは光石研大森南朋などが演じて、目の奥に非日常的な狂気をはっきりと感じる演出だった。けれど、三宅さんのよりもっと普通のなんでもない人という演技が、実にさりげなく作品全体に作用していた。
風間杜夫さんの父親役は1月に演じた『セールスマンの死』の父親役からの発展系にも感じた。次男を長男から庇うシーン、父性が突きつめると母性と同じものになる。あそこの風間さんは男でも女でもなかった。

このシーンに至るまでも、三宅さんが存在感を軽くして、風間さんとともに「男らしさの放棄」をした家族を、言葉や設定でなく表現しているのがグッときた。

セールスマンの死』では家父長制と資本主義の崩壊を描いており、父と息子の関係性がアメリカ的で分かりやすい。今作と似てる部分もある。父親は団塊世代で昭和のいい時代を経ているが、息子は不景気しか知らない。しかし今作では母親の不在もあってか、父親が既に家長としての責任を放棄している。ウイリー・ローマンが死なずあの後人生が続いていたら?という設定かなという捉え方もしてしまう。

1月に『セールスマンの死』を見に行った時に、赤堀さんと荒川さんが近くの席にいた。風間さんを見に来ていたのだろうが、あの時点で今作はどこまで出来ていたのだろうか。影響はどの程度あったのか気になる。

吉岡里帆さん演じる石井は、今までの赤堀作品の中で一番しっくりきた。彼女の仄暗い、おそらく自分でも持て余してしまいそうな色気をうまく使っていた。石井役を男に搾取されるかわいそうな女と演じさせるのは簡単だが、そうしない。かといってファムファタール的な崇め方もしない、母性も担わせない。以前は赤堀作品の女性に長塚圭史の女性観や、岩松了作品の非日常感を感じたが、今回は演出に遠慮がない。遠慮がないから違和感もない。風間さんにもだが、役に対して差別的目線がない。家父長制を放棄しているから、性差も実はない。ある種のジェンダーフリーな作品ともいえる。

ただ生きている人を描いているという手触りがあった。

 

前述した伯母も、知人の家庭もほとんどの人が亡くなり、もとの家族の形はもうない。特に知人の家庭はあまりいい形で終わっていないので(※事件とかではないです)、この後次男が幸せになる未来があればと思う。長男も不在に泣いてくれる妻がいるし、石井はだいたいあのタイプは平凡な男とサクッと結婚する。みんな生きていく。

 

(メモ)

・ところで火をつけたのは長男では思ってましたが、それは考えすぎかしら。だとしたら次男が外に出るきっかけは長男のおかげなのだった。

風間杜夫は老人俳優として劇作家のミューズになりそう。

・隣の席の老女3人組がずっとゲラでうるさかったが、今作の母親がいた頃は色々あっても多分笑ってごまかしつつ過ごせてたんだろうなーと。そこも知人の家と同じ。

・ヘリコプターの音なのか、飛行機の音なのか。ヘリコプターだとしたらやはり舞台は東日本なのかな。飛行機の音と思ったのは成田空港近辺か、神奈川の基地あたりの雰囲気もある。岩松了作品に出てくる田園都市線付近はわりと米軍基地の飛行機の音がする。

・三宅さんのかわいさを全く引き出さない演出でほんと赤堀さんでなかったら許さない。でもおでこにチューはやば〜い。

・唯一三宅さんの筋肉を生かした演出のクライマックス。ひきこもり設定とはいえ、荒川くんの巨体をどうにかできる三宅さん。

・まさかの夏の夜の夢ネタ。

・1月に見た『セールスマンの死』の感想も後で書きたい。今作と対比してそう。