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配信観劇その⑨ “It’s true, it’s true, it’s, true” by Breach Theatre

アルテミジア・ジェンティレスキ - Wikipediaという17世紀の女性画家の、1612年に実際にあったレイプ裁判を題材にした芝居。

裁判記録が残っているレイプ裁判としても有名だそうですが、今回初めて知りました。

配信はもうそろそろ終わりかな。

 

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https://www.breachtheatre.com

 

ネタバレありです。ないと話しにくい内容。

俳優は全員女性。メインの3人+1。3人は交互に色んな役をこなすが、うち2人はアルテミジア役と彼女を襲ったアゴティーノ・タッシ役を主に演じる。

アルテミジアは父親が画家で、幼少時から絵を学び優れた才能もあった。タッシは画家で、彼女の父の職場?によく顔を出しており、父親に依頼され彼女の家庭教師だった。

その関わりの中でタッシは無理矢理彼女に性的暴行をするのだが、そのやり方も卑劣。部屋に鍵をかけ。押さえつけ叫べないようにし、脅した。そしてさらに、事後には結婚するからと彼女を言いくるめる。彼女は当時たったの15歳である。

裁判は1612年なので、彼女は18、19歳頃。それまでタッシは結婚を盾に、彼女と性的関係を続けている。しかしその経緯も脅迫めいているのは演出でなくとも想像にかたくない。イタリアというカソリック教の強い国で、処女性が失わられる事がどれだけ生きにくいことか。たとい才能があっても、女は画家としては扱われない時代、ならば男に依存して生きるしかないと彼女が思い込んでしまったとしてもおかしくない。

レイプ裁判ではよくある和姦か強姦かの争点は、今と変わらないなととてもショックを受けた。

彼女が最初に暴行を受けた時になぜ抵抗しなかった?にはじまり、他に男性との交流が多かったのでは(父親の職場に多くの男性が出入りしていたから)、証言者の曖昧さ、タッシに忖度する証言、暴行後のタッシとの関係などなど。

この辺のくだりは『藪の中』も思い出され、もしやこのままあやふやに…?と不安にもなった。

さらに衝撃的なのは、アルテミジアが裁判中に拷問を受けるシーン。芝居では金色の絵具のような液体の入ったバケツに彼女が手を突っ込まされ、熱がり痛がっている。熱湯なのか薬品なのか。おそらくは「拷問を受ければ真実を話す」という野蛮な方式なんだが、タッシについては「彼は画家だからこの拷問は免除」と裁判所に言われた時、アルテミジアが「私も画家よ!」というシーンが悲しくつらい。女性に全く人権がないというのが分かる。

その間脅しをかけ続けるタッシに向かって(裁判所にちゃんとタッシの目を見て話さなければ真実ではないと言われている、これまたつらい)、アルテミジアが涙ながらに訴える言葉がタイトルになっている。

 

ラストは彼女が後年描いた『ホロフェルネスの首を斬るユディト』に出てくるユディトが出てきて、彼女の戦いを称える。

 

裁判の後の記録は消えている。がユディトとアルテミジアが歌い叫ぶラストで、タッシがどうなったが語られる。

「タッシはローマを追放されるがすぐに戻ってきて、教会絵などの仕事に戻っている。でも奴は一介の画家。私はフィレンツェ芸術院では最初の女性会員として受け入れられたのよ!」

その辺りの演出は溜飲が下がるので、芝居としてうまくまとまっているしカタルシスもある。

が実際はかなりアルテミジアにとっては壮絶な出来事であっただろう。どこまでこの芝居のように強く言えたのか、疑問もある。

大きな声で叫んだとて、どうやったら女の言うことに人々は耳を傾けてくれるのだろうか。今現在も同じような事があったとして、どれだけ昔と変化してるのか不安になるテーマである。

芝居は教会で撮影されているのだが、美術的な意味も大きいが、真実を語る場所として選んだのだろう。教会でなくとも、語る事を信じてもらうにはどうしたらいいのだろう?いつまで私たち女は同じことを何度も声が枯れるほど叫ばなくてはいけないのか。

 

女性芸術家が強姦されるという話については、カミーユ・クローデルも思い出される。彼女がロダンの恋人(愛人とは言いたくない)で公私共にパートナーでありながら、決して同等ではなく芸術家としても大きく評価されなかった時代。彼女は幾度かアシスタントとして雇った男性に強姦されたという話がある。彫刻という性質上、体力を必要とするため男性をアシスタントにしていたそうなのだが、密室の中で女性芸術家が声に出せない事件は多かったと思う。カミーユはその後ロダンとの関係の破綻から精神を病むが、男性優位の社会でロダンだけでなく男性によって心を折られ続けていたのだろう。

それでもアルテミジアもカミーユもそれを糧に作品を残した、などと言えるだろうか?そんな事がなければもっと才能を開花させられたと思う未来であってほしい。