je suis dans la vie

ライブとか映画とか芝居とか。ネタバレ有り〼。

いろいろ読んだもの・文学系編(その2)

タイニーストーリーズ

タイニーストーリーズ

1年に1回の新作。確実に1年に1回は出してくれるし、クオリティも下がることなく、安心して読める数少ない作家のひとり。
今回は短編集。けっこう珍しいかな?ショートショートまではいかないけど、中編くらいが多い人なので、ここまで短くしたのは初めて?
週刊誌の書評でピーコさんが、お風呂で毎日1話ずつ読んで楽しんでいる、とあって、タイトル通り小さなお話の宝箱、といった感じ。私は一気に読んでしまいました。こらえ性ないので。
しかし、その宝箱には悪意がキラキラと散りばめられているのです。どっぷりはっきり悪いわけではなく、日常的にそこはかと感じられる悪意。
「宿り木」なんかは最たるもので、語り手は自らの悪意を相手にはそうと思わせず、淡々と実行していく。恐ろしい。多分、その辺で「天然さん」としてうようよと生息しているだろうというリアリティ。
エイミーさんの作品には、今までもチラチラと似たようなキャラクターは出て来ていたが、今作でははっきりと、しかし下品にならず抽出されている。あとがきの通り、「醸造されて」、旨味たっぷりの言葉がつまっている。これを他の作家がやろうとすると、悪意だけの女の業ばかりが目立つ、不快にしかならない文章になるだろう。
そして、彼女の私生活での大きな変化、それがこの中でもきちんと作品として昇華されていた「GIと遊んだ話」は、長年のファンとしてはなんとも読み応えがある。もう彼女のブラックミュージックを絡めた、気だるい紫煙のような話は読めないのかなと思っていたら、年齢を経てまた深い味わいの文章になっていた。
目次を最初に見たときに、珍しくえぐいタイトル(18禁なので書けまへん)があって、村上龍っぽいわーと思ったら、そもそも「限りなく透明に近いブルー」の第1稿のタイトルだったそうな。

私の男 (文春文庫)

私の男 (文春文庫)

立ち読みした時に、出だしが面白かったので買ってみたけど、若干不完全燃焼…。面白いんだけど、何か足りない感じ。会話文はうまいんだけど、そこに頼り過ぎになってしまう感じもする。
ただ、現在から過去に向かっていくという構成、主人公・花と養父・淳悟の関係、二人の秘密がだんだんとあばかれていく様は、良質なミステリー。
私が一番面白いなあと感じたのは、花の婚約者の視点で描かれた第2章。花と養父の関係が、はっきりと描写で現れているのは実はこれが一番かな、と。しかし、設定上、この婚約者は脇役も脇役なので、ずっと語り手になるわけにもいかんのだが。

まぼろしハワイ (幻冬舎文庫)

まぼろしハワイ (幻冬舎文庫)

ばななさんは、最近なんつーかスピ系なんでしょうか。それはそれでいいんだけど、前よりさらに拍車がかかったような。舞台がタイトルの通りハワイなので、意識してそういう風に書いてる部分もあるのだろうか。
旅行している時とか読むとふわわ〜となっていい感じです。もしくは、旅に行きたいな〜って気分の時に。

砂漠 (新潮文庫)

砂漠 (新潮文庫)

これは青春小説、なんだなと思う。
同年代なので、なんか大学生活の雰囲気とかがフラッシュバックした。ああ、私らが生きてた頃ってこういう感じだったよな、こんな奴いたよな、とか。行きつけの定食屋さんやら、雀荘とか。
村上春樹が自身の大学時代を投影したのが「ノルウエイの森」なら、伊坂幸太郎ははっきりと愛情を持って、この作品に自身の若き頃の空気を描いているのかも。
伊坂さんの作品は、常に明るい救いを最後にはっきりと提示する。そこが支持者が多い点でもあると思う。音楽やリズムというのを意識して書いてるのも、読み手への優しさを感じる。
が、ここで何度も書いてるが、私は伊坂ファンじゃないのです(そんなんばっか)。なんかこの人と気が合いそうな気がするけど、友達にはなりたくない〜みたいな感じ。もう、サン=テグジュペリの「人間の土地」の一説とか引用してくるのとか、うっわ〜って感じだし。読んでる本とか、聞いてる音楽とか若干かぶってるだけに、なんか、やだ。いい作家だと思うのよ。読みやすさ、っていうのは大きなポイントだし。読書家というのも作家に必須の、最近は忘れられがちなスキルを持ってるし。でも、やなの。
だから、伊坂幸太郎好き、って言う日はずっと来ないと思われ。