je suis dans la vie

ライブとか映画とか芝居とか。ネタバレ有り〼。

愛というのでないけれど

kai嬢にいただいた一冊。ただのグルメエッセイとあなどるなかれ。読み物としてフツーに楽しめます。S原さんはどこまでフィクションなんだー!いいなー、ああいう関係。
食べ物と人間関係というのは、なにげに密接だったりする。美味しいものを一緒に楽しんだ人との記憶は残る。同じ店に何度も通う仲はちょっと特別に思いたい。同じものを美味しいといえる、やっぱり愛はあるよなあ。しかし、うまそうに食べてるなー。あそことあそこは絶対に行きたい。
ありがとー、kai嬢。また下北の飲み屋に行きましょう(ホ○コ○さんに2回も遭遇したあの店)。あそこの青菜のクリーム煮が恋しいです。

前から読みたいと思っていたのですが、重そうなのは分かっていたので、躊躇してました。でも読んでよかった。時々、ずばっと入る台詞がリアル。莢子のお姉さんが、妹のいい人っぷりに切れて「普通は人の悪口言ったり、さげすんだりするもんなのよ!」っていう言葉が好き。いいお姉ちゃんだなあ。私は弟しかいないので、女きょうだいに憧れる。
あと莢子のお見合い相手が「ハッシュ!」の感想を「少ないほうの世界に生きる人でも、自分の世界を好きになろうとしている」というのにはグラっときた。できることなら、そういうことにアンテナが引っかからない方が、だいたいにおいて幸せなんだと思うが、それでもやはり、つらいことが多い中にも、大多数には味わえない幸せがあるのだと思う。決して負け惜しみではなく、かといって傲慢にもならずに、そうでありたいと思った。
それから、本の内容には関係ないのだが、読んでいて、はっと思い出した事がある。
私は母と仲が良い、が、ぶつかることもしょっちゅうだ。けれど、一番話をする人だと思う。数年前、私は仕事のことでかなり悩んでいた。人間関係もだけれど、仕事に対しての憤りや、自分の在りかたにも迷っていた。いつものように、母に相談した。しかし、的を得ない答えばかりで、私は少し苛立った。苛立った私に母は、
「だって仕方ないじゃない、お母さんにはわからないんだもの」
と言った。
母は弟が生まれるまでは働いており、途中子育てのために専業主婦の時代もあったが、自分の小遣いくらいは、とパートをしたりなんだかんだ働いていた。今も趣味が高じた朗読の講師をやっている。いつも母は、人生の師であり、指針だった。その母が「働くひと」の気持ちが分からないと言った。私にはかなりショックなことだった。あの時の母の、泣きそうな顔はちょっと忘れられない。男の子が、お父さんより背が高くなったり、ケンカや腕相撲で勝ったりしてしまった時の寂しさは、こんな感じかもしれない。
母と自分の生きている時代が違う、といえばそれだけのことだ。ただ、私はそれから母に仕事の話をしなくなった。愚痴や不平不満も減ったように思う。母を恥じたのではない。母に理想を押しつけ、いい年をして甘えつづけていた自分を恥じた。母にも分からないことがあるのだ、親もただのひとなのだ、ということをやっと体で理解できたのだと思う。前より距離はできたが、私は母を放して、自分も放すことができたような気がする。