ナショナル・シアターの配信。6/25まででした。
Black Lives Matterがアメリカ全土のみならず、世界中で語られている中、この作品を見たのはとても印象的な出来事でした。
第二次世界大戦頃、ジャマイカの黒人女性ホーテンスと、イギリスの白人女性クイニーの人生を中心に語られる物語。
ジャマイカのホーテンスのシーンから始まる。賢い彼女は教師になる事を夢見ている。幼なじみの初恋のマイケルが白人女性との許されない関係のため島を追われて(しかもホーテンスの告げ口によって)、彼女の初恋が終わる。ホーテンスを小さな島(Small Island)に縛る(もしくは連れ出してくれる)男を失うところから彼女の少しばかり波乱万丈な人生が始まる。彼女は友人の恋人だったギルバートと契約婚をして、イギリスへと旅立つ。
イギリスのクイニーは田舎の精肉?の家の娘で、ホーテンスのように学はなさそうだが、幸運にもロンドンでバーナードに見染められ田舎に戻らずに済む。しかし夫は徴兵され、信頼していた義父アーサーも事件に巻き込まれて亡くなり、途方に暮れる。この時の事件の時にクイニーと一緒にいたのが、ホーテンスと知り合う前のギルバート。そしてその後失意のクイニーと恋に落ちるのがマイケルである。
そんな感じで、ホーテンスとクイニーの人生がいくつかリンクしていく。この辺の表現はそれほど作為的でなく、うまくつながってわかりやすかった。ラストに向けての伏線ともなっているが、きちんとそれぞれのキャラ設定に沿っている。マイケルがクイニーに惹かれたのは、故郷での白人女性との恋愛経験も関係ありそうだし、ギルバートがクイニーと事件に合うのも彼らのフレンドリーな性格ゆえでもある。そしてホーテンスもクイニーも流れに身を任せているが、自分の意思で選びながら彼女らなりの人生を切り開いている。
黒人差別のエピソードが多く、フレンドリーなクイニーですら思い込みから来る発言が多い。ホーテンスがきちんとした英語を話していても、それに気づいていないとか。「黒人は英語が話せない」という思い込みだ。
ギルバートは特に具体的な差別のエピソードが多い。アーサーが米兵に撃たれて死ぬのも、もとは映画館でギルバートが米兵に罵られたのが発端だ。職場で露骨に嫌がらせされ、それでも耐え、法律を学ぶ日を夢見ている。
時代として差別が横行するが、登場人物のキャラクターは丁寧に個として描かれる。そこに人種は関係ない。ギルバートは明るく、世間知らずのホーテンスにも根気よく接している。クイニーは人がよく、ギルバートらに部屋を貸したり気さくだ。口の聞けないアーサーは人を受け止める度量がある。ホーテンスも少しばかり融通のきかない性格だが、賢いし根は優しい。
そんな普通の人々のささやかな生活の中で、死んだはずのクイニーの夫バーナードが戻ってきて、クライマックスを迎える。
大事なオチはネタバレしないでおくが、差別的な考えに凝り固まったバーナードへギルバートがうったえかける言葉が印象的だった。
Your white skin, you think it give you the right to lord it over a black man.
But you know what it make you?
White. That is all, man. White.
No better, no worse than me.
「肌が白い、それが黒人を支配する権利があると思っているのか?
白い、それだけだ。何も俺たちより優っていないし、何も劣っていないんだよ。」
バーナードの返事は好ましいものではないけれど、彼がなぜそうなってしまったのかも語られる。
小さな島でそれぞれ育った白人と黒人は、それぞれ優しくて、それぞれ傷を持っていて、それぞれの人生をなんとか過ごしていた。それは似通っており、どこもそれほど大きくは変わらない。
現実、今アメリカで起こっている、そして今までもあった事はもっともっと悲劇的で残酷だが、ギルバートの言葉がすべてだと思う。ずっとずっと肌の色の差別の話なのだ。皆知っているのに、悲しいことに。
ギルバートの言葉はホーテンスを動かして、彼らは本当の夫婦として生きていく事を選ぶ。そしてクイニーの人生も大きく変わる。ギルバートが少し軽薄ながらも優しい男で良かったし、マイケルによって女性2人の人生はリンクしているが、ギルバートの優しさによっても得難い絆が生まれたのではと思う。
セットの立体感や、プロジェクションの効果的な使い方、音楽で表すジャマイカの明るさと暑さなどの雰囲気はこちら。
Last chance! #SmallIsland embarks on a journey from Jamaica to Britain, with three intertwining stories of characters longing for change.
— National Theatre (@NationalTheatre) 2020年6月25日
This ★★★★★ epic stage adaptation of Andrea Levy’s Windrush novel, by Helen Edmundson, is streaming until 7pm UK time. pic.twitter.com/XEpC3aquPB