je suis dans la vie

ライブとか映画とか芝居とか。ネタバレ有り〼。

「マダム・メルヴィル」@スフィアメックス(2004/10/30)

出演:石田ゆり子成宮寛貴村岡希美
演出:鈴木裕美
作家となった男が初恋の女性、マダム・メルヴィルの住んでいたアパルトマンに越してくる。男はもう中年、家族もいる。でも忘れられない、あの恋を。たった一晩と一日だけれど。
マダム・メルヴィルアメリカンスクールの教師、孤独な15歳の少年、カールはその生徒。ふとしたことで二人きりになり、一夜をともにする。カールは憧れの女性に美術や詩、いろいろな世界を紐解かれる。
あらすじを聞いたとき、いわゆる「大人の女性と少年の恋」という定番ものを想像していた。「卒業」「肉体の悪魔」「個人授業」といった名作のような。でも、ちょっと違った。マダム・メルヴィルは30代を過ぎて、いろいろな恋に傷つき、でも少女のような可愛らしさを忘れていない。二人とも少しずつ恋に落ちて、戸惑って、傷ついて、傷つけて。それは年齢とか関係なく、誰もが一度は経験したことのある思い。なのに、二人の年の差、立場の違いという現実は否応なしに襲ってくる。
「マダム」と「マドモワゼル」の違い、それはミスとミセスの違いだけではない。若い女性とそうでない女性。マダム・メルヴィルは結婚をしていないのに「マダム」と呼ばれる。それは学校の規則だけれど、一人の女性の枷になってしまっている。でもその枷のおかげで、カールと恋に落ちた。皮肉なもの。鈴木さんの解釈なのか、マダム・メルヴィルをただの「年上の女性」にしなかったのはとても良かった。「年上の女性」も「少女」だった時が確実にあるのだから。石田さんの可憐さはとてもよくフィットしていた。
初めての、しかも「ほんとうの恋」は忘れられない人が多いかもしれない。失ってしまうことが多いし、つらい思い出になってしまっている。でも、どうせ段々と忘れてしまうのだから、いっそのことカールのように何度も巻き戻して、浸って、甘くて切ない思い出を大事にしてもいい。せめて自分の中で。
松井るみさんの美術は本当に美しかった。私は一応何故か仏文出身なので、パリのファッションや空気を味わえたのは嬉しかった。私も大好きなドラクロアの絵を見にルーブルに行った。好きな人にもらった映画のパンフがもとで、仏映画にはまった。私の好きな空間がそこにあった。
休憩後の幕で、二人が飲むコーヒーの香りがほんとうに香ってきた。舞台が終わってからもしばらく残っていた。つらい物語だった。でも、誰の心にもある恋の化石を、つかのまよみがえらせる。