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『リトル・ボーイ、ビッグ・タイフーン 少年口伝隊一九四五』@川崎市アートセンター/アルテリオ小劇場

作:井上ひさし  
演出:栗山民也
ギター:宮下祥子 
出演:新国立劇場演劇研修所第2期生
広島に原爆が落とされた数週間後、被爆地を猛烈な台風が襲った。人間が出現させたこの世の悲惨を、激しい雨と風が打ちすえた。死者2000名余人。戦争と災害、双方の不条理に翻弄される人間の「弱さ」と「強さ」を描き、「祈り」と「救済」の意味を問う、あらたなステージ。ヒロシマを舞台にした世界的話題作『父と暮らせば』につづく、井上ひさしの書き下ろし劇。

同劇場のオープニングとして企画された、「国際ドラマリーディングフェスティバル」の中の1作。近所なので行ってみたのですが、出し物も、建物も結構レベル高いです。地方の文化センターでしょ?と思って行くなかれ。
建物はガラス窓が大きいので、2階の入り口も、3階の待合も丸見え。外階段から受付に向かうとき、3階窓からコーヒー(多分)を飲みながら、客入りを眺めている栗山さんがいらっしゃいました。わー、ちゃんと見に来てるんだなあ。上演後には、井上さんらしき方も。そういや、何気に書き下ろしなんですが、間に合ったのだね・・・(ボソ)。
舞台手前真ん中に、広島の形をした町の小さな模型。後で近くで見たらダンボールで作られており、ところどころ剥がしたりしているのが、爆弾の跡で荒れた土地に見えるようになっている。
そしてその模型の少し後ろに横一列に並んだ10数個の椅子に演者が並ぶ。そのすぐ後ろ真ん中に台があり、ギターの宮下さんが、効果音、BGM含めたすべての音楽を奏でる。
その後ろにはスクリーン。雨や光を照明で表現するほか、エピソードごとのタイトルがシンプルに映し出される。
リーディングなので、あまり大きな演出はない。一列に並んだ演者は、立ち上がったり、椅子を少し前に出したり、時折動きを含めた演技もあるけれど、大仰なものではない。皆、地味な夏の制服姿で、ほぼノーメイク。演者が研修生というのもあるけれど、素朴さや若さがちょうどシンクロして、作品に合っていた。
最初は緊張もあるのか、声の張りばかり目立って、広島ののどかな風景を描写する言葉がうまくこちらに伝わってこなかった。しかし、少年口伝隊の三人が中心になり、彼らを面倒見る新聞社の花代さん、哲学者のおじいさんというキャラが動き出すと、少しずつ物語に息吹が吹き込まれていく。役名のない演者も、その流れに乗って、皆がひとつの大きな波を作り出そうという「ひたむきさ」に心打たれた。
テキストの素晴らしさ、演出の素晴らしさは言うまでもない。しかし、素晴らしいからこそ、演者に求められるものも高くなる。作品に応えようとする演者の必死さが、生きようとする人々の心に重なっていたのではないか。
栗山さんの演出は、いつも誰かひとりが突出するというのではなく、ひとつのファミリーとしての作品を作り出す。どんなに濃い役者が出ていたとしても、それは同じように感じる。研修生の作品というのも意識しているだろうが、無名の役者の作品というのは栗山さんの手法に合っているのかもしれない。
井上さんの作品は、戦争がテーマになることが多いが、ややこしい事もシンプルに、そして時に楽しく、分かりやすく差し出して来る。演者の若く、まだ技術的につたない面すらも、井上さんの言葉を生き生きとさせるエッセンスになっている。
それにしても、かなりレベルの高いものでした。見られてラッキーかも。