NHKホールは音がいい。さすが国民からほぼ税金なお金を徴収しているだけあって、昔からここの会場の音の良さは素晴らしいと思う。特に歌については、壁や天井への反響がほぼないというか、実際よりもかなりいい声に仕立て上げる。
この日の五十嵐も、もちろん本人のコンディションもよい状態だったのだろうけど、声の伸びが予想以上によい。伸びがよく聞こえるから、歌っている方も気持ちよいだろう。ハミングのようなかすかな歌声さえこちらに届く。
それにしても、NHKホールをこれほどシンプルに使ったバンドもいないのでは。これが年末には紅白歌合戦でギラギラになるのかと思うと不思議だ。しかし、照明をふんだんに使い、ホールならではの演出で、それはそれでよかった。AXやリキッドの小奇麗だがほどほどにくすんでぼやけた照明も、このバンドの曖昧さを象徴していたが、ホールのまるで病院のような整然とした清潔さは、このバンドの変わらなかった「他の追随を許さない存在」という表現に似合う。結局、今まで、オーディエンスさえ見ることはできても、彼らに追いつく事はなかったのだと気づく。
セットリストも素晴らしく、MCがほとんどないのにつなぎが静か過ぎるこのバンドに、曲順は実は命綱だと思っていた。新曲を交えながらも、間が空きすぎな時もありながら、その流れに無理は無い。かなり練習をしたのだろうか。3ピースなのに、五十嵐のギターにあまり無理は無く、キタダさんのベースも大樹ちゃんのドラムも落ち着いている。やはりホールの音の良さが、元々はテクニック的にはうまいこのバンドであるから、水を得た魚というところか。
新曲、といってもほとんどがこの3年の間にライブでやっている曲ばかりだ。この4年近く、東京のライブ(イベント含む)をほぼすべて行ってきた身としては、今度の1月のニューアルバムで音源化されることになって、これらの曲もやっと完成形に近づいたのかなと実感した。
途中でまあ悪い予感はしていた。いいライブ過ぎて、すっきりしすぎていて、いつもと違う緊張感。ホールが広いせいだ、とも思った。でも、「ラファータ」から「ハピネス」への流れが、対極過ぎて、でも自然で予感は確信へと近づいた。
「聞こえるかい」を久々に聞いた。その後、妙に落ち着いた、すっきりした、そしてあまりに普通で礼儀正しい五十嵐のコメント。
「支えてくれていたスタッフやメンバーのおかげ」
「甘えていてはいけないと思いました」
「3月1日、大好きな武道館でライブをします」
「そして一旦終了します」
「百万回ありがとう」
呆然とした観客の「えぇー・・・?」という間の抜けた叫びをあっさりと振り払って、最後の「翌日」のイントロが涼やかに響いた。
曲の間中、走馬灯のように今までのことがよみがえった。
ジャパンの記事で気になっていて、ふと視聴して購入した「Mouth to Mouse」。その勢いで行った渋谷公会堂のライブで完全にはまったこと。下北や渋谷に掲載記事のバックナンバーを探しまくったこと。入院中に無理して外出許可をもらって行った、リキッドでのイベント。落ち込みまくっていた時の遅死10.10。今の旦那と付き合うか付き合わないかの瀬戸際で、かなり悩んでいた時の最初の924。何度かあったグタグタなライブ。たまの雑誌掲載に一喜一憂したこと。
嗚咽をこらえるので精一杯だった。
とにかく、言いたいのは。
ふざけんなばかやろー。今までいくらつぎ込んだと思ってるんだあ。金だけじゃないぞ、私のこの気持ちをどうするんだああああああ!とまるで、長年付き合っていた恋人が「やっぱり結婚できない」とトンズラされたような気になってしまいました(セコイ)。いやさあ、でも、とりあえず、怒ってないと、もっと泣きそうなんだもん。ありがとうなんて言ったら、なんか「これからもいいお友達でいましょう」みたいな、きれいごとでなんとか強がってるみたいでやなんだもん!「もう甘えてられない」って何?まだ甘えてんじゃないの?好きでいる事も、見ているだけも許されないわけ?とぐだぐだといじけまくる。
終わった後、鍋パーティ中のちぃちゃんに電話。
「お前が解散?とかいうから本当になったじゃん〜」と八つ当たり。
ゲラゲラ笑う声がしてちょっとほっとする。笑い事にしないと、ほんとやばかったし。
一番、ううむと唸らされたのは、やはり御大kai嬢のコメントでした。
「BOØWYが渋谷公会堂で解散宣言して、翌年ビッグエッグで解散ライブしたのみたいじゃん!」
年がばれますから(もうビッグエッグって言わないし)!でも、確かに時期も似てるんだよなー。BOØWYはイヴに解散宣言で、翌春に解散だもんね。(懐かしいなあ!)
しかもラストライブが「LIVE FOREVER」って。オアシスか!
で、まだニューアルバムのレコーディング中でしょ?解散決まったのに音入れて、最後のライブやってって。そんなすごいこと、五十嵐できんのかいな、・・・とまた心配になる。あ、また心配しちゃった。これから私を捨てようとしている男に。畜生。
まあ、あれだな。結果としてだけで言うなら、キタダマキという、ともすれば、ものすごくうまいけれど前面に名前が出ないスタジオかセッションミュージシャンのままでいたであろう人を、ライブミュージシャンとしての位置を確立させた事。中畑大樹という、叩けば叩くほどにその力量を発揮して、テクだけもパワーだけでもない、でもバンドを引き立てて、どのバンドでもその音を開花させるドラマーに育てた事。二人はこれから引く手あまたになるだろうよ。いつまでも「あのsyrup16gの」が枕詞になって。
大樹ちゃんについては、長年の友人であるということも含めて、おそらく、スタッフ・メンバー・ファンと関わったすべての人の中で、一番いろいろ思う事あるだろう。想像でしかないけれど。苦渋の決断だったのか、やっとと安心したか、もう諦めの境地か、新しい未来への希望にあふれているか。
何を言ってもしゃーない。3月1日はどうなるかなんて、誰にも分からないし。
Set List
- 新曲(ニセモノ)
- I.N.M.
- 生活
- 神のカルマ
- 新曲
- 新曲(helpless)
- 新曲(途中の行方)
- 新曲(ラファータ)
- ハピネス
- ハミングバード
- 落堕
- Sonic Disorder
- 天才
- パープルムカデ
- 新曲(scene through)
EN 1.
- 新曲(来週のヒーロー)
- Coup d'Etat〜空をなくす
- 真空
- リアル
EN 2.
- 聞こえるかい
- 翌日