je suis dans la vie

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三池崇史監督新作『初恋』はバイオレンスなボーイミーツガール

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春の東映ヤクザ映画祭りだ〜!わっしょい!
和製タランティーノっていうか、こっちがご本家の三池ワールド全開。
楽しい楽しい新宿ノワール・バイオレンス映画。

でも純な気持ちがちゃんと描かれてる。

 

ネタバレあります。

 

小悪党のヤクザ加瀬(染谷将太)のツメの甘い計画に悪徳警官(大森南朋)が乗ったが、そこからつまらんミスやすれ違いで、ヤクザとチャイニーズマフィアと警察がぶつかる一晩のドタバタ。

そこにヤク中の少女モニカ(小西桜子)と余命を告げられたボクサー・レオ(窪田正孝)のボーイミーツガールが絡み合う。

 

一人一人がキャラ立ちしてて、みんな主役なのにとっ散らかってない。大風呂敷を広げた、というより、大きな紙を少しずつ折って行ったら最後に何か形になっていったという感触。

ベッキーの怪演は爽快だし、染谷君のイっちゃってる感は可愛らしささえあり。内野さんの古いベタなヤクザの現代からはズレてる物悲しさが絶妙。滝藤さんの医者は大事なシーンをほどよ〜い外連味で。ムラジュンは三池組初めてとは思えないほどの馴染みっぷり。

塩見三省さんはさすがの存在感だけど、あれ痩せたな?久しぶりに見たな?と思ったら、そうでした…大病されてたんでした。あの姿はご自身の私物もあるらしい。でもきっちり役として全うさせるさまは、塩見さんと三池さんの熱い信頼関係を感じました。

ヤクザのディテールを描くとこは丁寧で、市川(ムラジュン)が出所する権藤(内野)を迎えに行くとこで缶ピースと缶のアサヒスーパードライ持って行ってるのは権藤が刑務所入る前に好きだったものだろう。乗ってる車がセンチュリーなのも古いヤクザの権藤の好みかと(今ならレクサス)。もう一台はプリウスで、この辺も今のヤクザはベンツとかいかにも目立つ車は乗らないというリアリティ?かな。

(追記:センチュリーはトヨタで一番高い2000万くらいする。サイトみたらパーツ細部が職人の手作り。映画のは中古で今は300万くらいのもの?でも古いセンチュリーなのが権藤らしくてそれもよい。)

その割にチャイニーズマフィアの描き方は外連味あってむしろ楽しかった。青龍刀とか使わないでしょ。

そして我らが大森南朋。久しぶりにスクリーンでいい感じにダメな大森くんでした。悪徳警官のこずるいとこや、ブチ切れてからの振り切れた感じ。キャリアを経て、酸いも甘いも押しも引きも外連味もリアリティも、全部役者大森南朋の血肉になってた。最後の死にっぷりは『俺たちに明日はない』か『明日に向かって撃て!』の名ラストシーンを彷彿とさせるのは、三池さんがかっこよく撮ってくれようとしたのかな?なーんて。まあかっこ悪かったけど。

窪田くんと小西さんはそんな濃い中で、ピュアな2人を熱く、でもひっそりと。キスもしない見つめ合う事もほとんどない。タランティーノ脚本の『トゥルーロマンス』を彷彿とさせる。あの2人も純愛だった。

窪田くんはボクシングのシーンがリアル。他の人のアクションシーンが派手な分、ここは丁寧に描いて、しかも最初と最後がうまくリンクしててよかった。彼の舞台を見た時も、体の使い方がうまい人だなと。目も印象的だし演技も良いけど、どこか一ヶ所や雰囲気だけに頼らない、ちゃんと体全体を意識してる演技。

小西さんは文字通り体当たり。三池さんは引き出すのがうまいなあ〜。パンフにあった演技指導で最後に「あなたを信じるよ」と言ったのは殺し文句だ。

それから、映画の中では語られなかったけど、権藤はもしかしてレオの父親なのでは?とふと思いました。出所してからわざわざボクシングの試合見に行くって、昭和のヤクザっぽいけど含みがある感じ。そこまで描くとやらしいから、しなかったのかな。

役者全員濃いのに、誰も突出してなくて変な自意識も感じなくて、三池組に参加してる気概とプライドと信頼関係を感じました。昨今の日本映画で辟易してたあの感じが全くなくてほんと気持ちよく見られた。

終始ドキドキ、ワクワク、ウキウキして。まるで初恋のデートみたいな映画体験。

 

さてここから下は私の「映画『初恋』は令和の『殺し屋1』なのか?」という私見です。殺し屋1好きすぎて勝手な推測してますので興味ある方だけどうぞ〜。

 

見終わってから『殺し屋1』だったなあって思った。でもなんでかな?とその時ははっきり理由は分からなくて。共通点を箇条書き。

・歌舞伎町

・ヤクザ

・チャイニーズマフィアや青龍刀

・ワンレンの髪の女(殺し屋1では風俗嬢、初恋は酔っ払いの看護師と中国女)

殺し屋1ではヤクザマンション→初恋はボロいアパート。この辺の階段上り下りの撮り方とか音楽のせいもあるけど、殺し屋1を彷彿とさせる。撮影は山本英夫さんかと思ったけど違った。でもそのくらいあの辺は似てた。

・ジュリの家は、イチがほうかさん演じるDV男を殺す雰囲気が似てる(その後放火も一緒?)

などなど。とはいえそれらのリズムや雰囲気も三池節、三池さんのフォーマットといえばそれまでですが。ワンレンは三池さんの趣味なんだろうし。

垣原キャラは加瀬とジュリに分散されてる感じ。ヤクでラリってからの加瀬は笑える垣原だし、バールぶん回してるジュリはサドな垣原。

権藤の古いヤクザ感も垣原の「オヤジへの愛」に通じる。垣原も根っこは古臭かった。

モニカがアパートでパンツ丸出しでぶっ倒れてるシーンなんかは、殺し屋1の風俗嬢のオマージュのようで(ただしこのシーン、洋画で似たようなシーンを見た覚えがあってそれが何だか思い出せない)。

ああそうすると、この『初恋』はイチが歌舞伎町から去った後の話なのか。と終わった後は思いました。

かつてイチだった大森くんが演じる悪徳警官をイチのその後としてもいいけど、大森くんが全くイチを出してないのでそれはないな、と。

イチのいない世界線なのか。

しかししばらくして気づきました。

新人・小西桜子は三池さんに見出されヒロインのモニカに、そして当時ほぼ無名の大森南朋も三池さんに見出され殺し屋1のタイトルロールを演じたことに。

そう、令和のイチはモニカでした。

黒目がちな丸い瞳、薬の幻覚で朦朧として歌舞伎町を彷徨うさま、アパートに監禁(イチは軟禁?)、かつて自分を庇ってくれた同級生を慕うさま、しかもそれに似た人を勘違いする(イチは殺しちゃうけど)。

そして何より何より「泣き虫」なところが同じ。

自分を支配する男(イチはジジイ、モニカは父親)から逃れる話。そしてイチと垣原は互いに衝動を、モニカとレオは恋をする。

内容は全く違う話だけど、いつだって三池流のボーイミーツガールは根っこが同じなのかも。