je suis dans la vie

ライブとか映画とか芝居とか。ネタバレ有り〼。

人情派探偵誕生~『終末の探偵』横浜ジャックアンドベティ(2回鑑賞)

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あらすじ

連城新次郎(北村有起哉)は喫茶店「KENT」の物置を住処に、しがない探偵業を営む。ギャンブル好きで借金だらけ、酒癖も悪くけんかっ早い。

ある時、顔なじみのヤクザ、笠原組のNo.2阿見恭一(松角洋平)に借金をチャラにしてもらうかわりに、中国系の新興マフィア・パレットについて調べろと言われる。同時期に、KENTへやってきた若い女性ガルシア・ミチコ(武イリヤ)から、消息不明になった友人のクルド人女性・べヒアを探してほしいという依頼を受ける。

調査を進める中、浮き彫りになっていく街と人々の変化。新次郎はめんどくさそうになんとか解決しようとする。

事件は二つ。地元のヤクザ笠原組VS中国系マフィアの“パレット”。そしてクルド人女性の失踪。二つにつながりはないように見えるが、「在日外国人」の存在が大きく関わる。

パレットのボスのチェン・ショウコウ(古山憲太郎)は在日2世。ミチコは両親がフィリピンからの不法入国者で、自身は日本で生まれ在住資格があるが両親はフィリピンに強制帰国させられている(これは実際の出来事をモデルにしている)。二人とも日本で生まれ育ち、アイデンティティも日本に近いが、ずっと差別を受け苦しみ、日本人への憎しみを募らせている。

チェンに相対するのが日本人である阿見。しかし阿見も古い「ヤクザ」の価値観が消えていく中で、自身のありように悩んでいる。

ミチコに相対するのは、歪んで偏見にまみれた日本社会そのもの。彼女は在住資格があるが、過去に両親の件でマスコミに出たことで、今も偏見の目に苦しんでいる。友人べヒアはクルド難民で、ミチコは彼らによりシンパシーを感じている。

その中で、新次郎はそれぞれの人に真正面から向き合う。しかしとてもめんどくさそうに。無理やりそれぞれをつなげるのではなく、新次郎が行った先でまいた種が、それこそめんどくさそうに芽吹いてなんとなくそれぞれがつながりあう。

つながり合うからといって、和解するわけではない。むしろ問題は歪なままで顕在化する。

そうして解決するものもあり、なあなあのまま終わるものもある。新次郎がした事は、正しいともそうでないともいえない。彼自身それを分かっている。「簡単に線引きするな」とはクライマックスでの重要な台詞だが、新次郎の美学がここに集約されている。必要悪を説くでも勧善懲悪でもない。あちら側もこちら側もない。

街は前より変わったようには見えないし、新次郎も別に変えようとしてるわけではない。「もういいよ、こういうのは〜!」と何度も言いつつ、もがきながらも、見捨てられない街と人に関わっていくのだろう。

阿見が「街がお前を受け入れたんだ」と言ったように、新次郎も変わりゆく街の中で、いつかは出て行ってしまうのかもしれない。

在日外国人の生きづらさを描きつつ、新次郎の命の恩人という自治会長の安井茂雄(麿赤児)が「あの人たち(外国人)とは分かり合えないよ」と諦めたようにつぶやく姿もまた、日本の抱える真実である。

麿さんと北村さんのシーンは、特に卓越した演技の呼吸がたまらなく。短い台詞の淡々としたやりとりの中でも、2人の関係が深いことを伝える技がすごい。

 

二つの相容れないものたちを、新次郎のシビアだが人情味あふれる視線で描いた本作。よくある探偵もの、アウトローものとはまた違う、新たな街の「裏ヒーロー」が誕生したのでは。ぜひシリーズ化お願いしたい。

北村有起哉さん&井川広太郎監督舞台挨拶(2月18日)

北村さんがジャックアンドベティに来てくれるなんて!上映後はパンフにサイン会もあって大大満足でした。

北村さんと監督のトークは簡単にメモ。

  • 井川監督、『私立探偵 濱マイク』の大ファンだそうで、舞台となった横浜日劇(J&Bの向かいにあった、今はもうない)に来たりしたことも。本作も横浜のこの界隈をイメージされてたそう(撮影は町田が多い)。
  • そのため、J&Bで本作を上映できたのはとても嬉しいとのこと。
  • 監督「北村さんはスタッフや他の俳優さんに話しかけたり、フラットで気さくな気遣いが役そのままだった。新次郎は北村さんんそのもので、北村さんに演じてもらって本当によかった」
  • 監督「いつもあんな風にスタッフにも気さくなんですか」という問いに、北村さん「そうですね、いつもあんな感じで、壁をつくらないタイプです」
  • 北村さん「アクションが大変で。もう自分も50代なので。練習してリハーサルして、何度も撮って。最後は腕が上がらないくらいヘロヘロ。アクション監督の園村健介さんがそれを見ながら笑ってた」
  • 北村さん「自分はルックスいいわけではないので~」(話の流れで出た発言だったのですが、そんなことないぞ~。かっこいいぞ~)

他にもいろいろお話してくださったのですが、終始監督と北村さんが笑顔で、とても良い座組だったのがよく分かります。「続編を!」という声がよく聞こえたのでぜひぜひ~。

二回目鑑賞(2月22日)

前売り券購入してたので、二回目。

トークショーでアクションについてのお話があったので、そこを中心に見直し。

園村健介さんはアクション監督、スタント、アクション・コーディネーターとして近年大注目。最近だと「ベイビーわるきゅーれ」のアクションが話題に。ちなみに「ベイビー~」に主演の高石あかりさんは、本作で新次郎のねじろの喫茶店「KENT」の従業員役。今回はアクションはないけど、続編があれば期待したい。

北村さんのクライマックスでのアクション、ヘロヘロになりながら、決して強くはないが相手を倒していく。つるつる滑るフローリングに、柱が真ん中にある。狭いスペースでのワンフレーム、ワンカット。アクションは決してパワーや技術のあるものではないが、この限定された状況で何故か見入ってしまう。アクションというより「振付け」を見ている感じに近い。よく見ると、ケガしないように綿密に計算してるのが分かる。

新次郎は他にも自転車をぶっ飛ばしてたり、鉄パイプで殴られたり、けんかに巻き込まれたりいろいろあるのだが、そんなに強そうでもないのにリアリティがある。そこも新次郎の役柄を反映してて面白い。

チェンと阿見の一騎打ちは、一回目見た時は、冗長でオールドスタイルすぎる感じが趣味ではなかったのだが、新次郎のヘロヘロアクションと対を成してるのだなと。それでももうちょっと短くてもいいかなとは思ったが。

ひとつ気になったのは、女性キャストの衣装がイマイチ。若い女性キャストが少ないのに、ミチコと凛の衣装が似ている。しまむらか町田のモディで買ったようなリアリティはあるのだが、それにしても色合いがかぶりすぎでは。キャストにもう少しリサーチしてほしい。男性キャストは各自のキャラに合った衣装だったので、ちょっと残念。女性キャストを、探偵ものにありがちなはすっぱお色気美人や、ものの分かった年配の老婦人とかにしてないのは好感がもてる(そこはあえてなんだと思うが)。

いろいろテーマを詰め込んでるが、きちんとそれぞれつながっており、台詞も多すぎず長すぎず。そして「古い価値観」についてもきちんと描いて、そしてそれを否定しない優しさもある。

北村有起哉という俳優を「映像にどのように配置するか」というのは、けっこう難しいのかもと実はずっと思っていた。演技がうますぎてなんでもこなせてしまう。それゆえに本来の良さがみえないこともあった。それはそれでいいのだけど、ヤクザ役が多かったり、ちょっと気取った渋めの役や設定が難しい役とかばかりで、イメージ先行してんだなと。長年のファンとしては、それだけじゃない魅力がたくさんあるのにと歯痒かった。もっと地に足がついた普通の役で、あの低音の声が台詞を言う時の重み、それをずっと見たかった。うらさびれた街の探偵が地に足がついてるか否かはさておき、本作はかなり北村さんの俳優人生が反映された役柄でめちゃくちゃよかった。