je suis dans la vie

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『TENET(テネット)』ジョンの背筋&ヨットのことなど

予告やティーザー見た時は「時間が逆行するって?タイムリープものなの?」とよく分からなかったのですが。実際見てもよく分からなかったでーす。

見終わった後に検証サイトなど見て、なるほどと(でもよくは分かってない)。

作中で主人公の名も無き男(ジョン・デヴィッド・ワシントン)がテネットの仕組みについて説明を幾度か受けるのだけど、だいたい「体感で分かればいいよ〜」とゆるい感じで。Don't think, feelみたいな。主人公も分かってないからいいのです。

タイムリープじゃなくて、同じ時間だけ逆行(その間世界は逆回し)したら過去に戻れるのと、赤は順行、青は逆行とかくらい把握してれば。色々ツッコミどころはあるけど無視。

SFというより、スパイアクションもの、バディものとしても楽しめる。ジョン・デヴィッド・ワシントンの鍛え抜かれた体(背筋ヤバい)とニール役のロバート・パティンソンのはかなげ色気、セイター役のケネス・ブラナーの非道っぷり。謎がずっと続く中、どうしてもキャラがはっきりしない性質のつくりではあるけど、この3人の存在感でなんとか乗り切った。

特にジョン・デイヴィッド・ワシントンは『ブラッククランズマン』の時も思ったけど、全然濃い役者さんじゃないのにうまい。ブラナーのような七変化でもないし、憑依系天才肌でもないし、お父さんのデンゼル・ワシントンのようなアフリカン・アメリカン俳優のシンボル的存在感もない。でもうまい。マヤでも亜弓さんでもないのにうまい。紅天女役をさりげなく横からかっさらっていきそうなくらいうまい(←このたとえ、我ながらいいかげんにしたい)。

元々フットボール選手だったという経歴もあるのか、その肉体美も「役作りのためにきたえました(ドヤ)」感がないのもよい。若い頃の山田詠美先生がかぶりつきそうなタイプの天然肉体派男子ィーな感じ。

山田詠美先生といえば、昔のエッセイでデンゼル・ワシントンの話があって、彼がハイブランドのスーツを着こなしている写真の載った雑誌を大事にしてるエピソードを思い出した(私も買った)。作中でジョン・デヴィッド・ワシントンがブルックス・ブラザーズ着てたら安物扱いされた上に、仕立てたスーツ着ていったら着こなせてないと見破られシュンとなるシーンは役柄とはいえ、がんばれ〜ジョン!と思いました。

その後ポロシャツ着てるんだけど、それは彼の肉体美をより美しく見せてて結果ベストコーデ。この辺は演出の意図なのか、ジョンの持つ力なのか。

ジョンの体の話になってしまうけど、彼の背筋がいかんなく発揮されてたのはヨットレースのシーン。

空飛ぶヨットとも呼ばれるF50、これ日本艇なんですね〜。

カタマランといって二艘型(もしくは双胴船)が特徴。アメリカズカップとかでも使うやつ。でかくてめちゃくちゃ速い。セイターが走行中落とされるけど、下手したら首の骨折って死ぬ。気絶してたけど、助かったのはセイターが鍛えてたからかも。

アメリカズカップを描いた映画といえば『ウインズ』。コッポラ製作総指揮、マシュー・モディーン主演。そこで女性がタクティシャン(戦術担当)をやる描写はあるけど、クルーとなったら相当筋力がいるのでは。作中キャットがクルーやってるけど、あんな細い女性には結構きっついと思う。筋力的な意味でも体重という意味でも。

そして自分は16フィートのやってたんだけど、いつも組んでる人以外とやるのはほんとに怖かった。セイターがキャットにセイリングを教えたのだとしたら、自分の命を預けてるという事なので、2人の関係は以前は深い信頼があったともいえる。そこまでノーランが考えてるかは知らんけど。

そして作中出てくるタックやジャイブは方向転換の意味ですが、ジャイブはかなり難しいし判断間違うとひっくり返る。

ここの描写が作品の性質に結果あってるなと思ったのは、力学について"名もなき男"が「体感で物理を分かっている」という点だなと。物理の修士持ってて頭でテネットを理解してるニールと、よく分かってないけどなんか把握できてる名もなき男。名もなき男がしょっちゅう懸垂してたり、ヨットでジャイブ成功させたり、トラピーズしたりするのとかは、テネットにおける「順行」を象徴している気さえする。インタビュー読む限りは、ノーランはたまたまF50見てかっけー!ってなっただけのようではあるが。

しかしそんなめんどくさい船をさっくり操縦するジョンの背筋よ(実際の操作はプロがやってたようですが)。ここの演技はジョンが適役。少なくともここのシーンはディカプリオやブラピではできない。

テーラードスーツを着こなせない背筋、しかし世界を守った背筋、実は元アメリカズカップ代表のエージェントという設定なのかもと思わせる背筋。すべてを背筋で語り尽くすジョン・デヴィッド・ワシントン。

そうテネットはビバ⭐︎背筋の映画だったのです(と無理矢理まとめてみました)。