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配信観劇その⑦ “Antony & Cleopatra (アントニーとクレオパトラ)” (National Theatre, 2018)

ナショナルシアターアットホームの配信、今回はシェイクスピアの「アントニークレオパトラ」。5月14日まで。

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レイフ・ファインズと「ホテル・ルワンダ」のソフィー・オコネドーが主演。演出はサイモン・ゴッドウインでレイフさんとは以前にもNTLでタッグを組んでる。最近は岡田将生さん主演のハムレットの演出も。

全体的に現代的なセットや衣装。

舞台装置が凝っている。エジプトのアレクサンドリアは大きなプールを真ん中に、セレブなリゾートホテルのよう。衣装も柄物や華やかなリゾート感あり。放蕩にふける2人にぴったりの世界。

回転して反対側はローマ。簡素なオフィス風、パソコンやスクリーン、衣装もスーツや軍服。女性も露出は少なく、オフィスルックなタイトスカート。色味もネイビーや白黒茶系。かろうじて置物や花瓶らしき装飾物がローマ風?とも思えるが花などもなく。

甲冑の代わりに防弾チョッキとか。現代風にするとどんな意図がとか色々考えてしまうけど、まあまあこれは舞台美術として面白い。

2つの世界は対照的。そこを行き来するアントニーの心の揺れなどがみえてよい効果だった。

このセットは二段構えにもなる。途中アレクサンドリアのセットごと奈落に下に降りていき、被さるように他の世界が現れる。上下左右裏表。立体的な世界観の美術はできれば実際に見てみたい。

 

さてあらすじをさっくり雑に言うと

「中年のヤンデレ不倫カップルが老いらくの恋に溺れ、ズブズブに抜け出せなくなり、しまいには勘違いして死ぬ話」

わー身も蓋もない。

ロミジュリを中年でやるとこうなるんですよ的な。純愛といえば純愛。そこを納得させるのはロミジュリより難しいかも。

レイフさんはなかなか愛敬のあるいじらしいアントニーを。最初に出てきた時にアロハシャツの前をはだけて、胸もおなかもいい具合にぽちゃってて、これは身体から役作りしたのね〜。クレオパトラにメロメロで、会えば人目も憚らずチュッチュしまくり、部下に見られてたら「あ、いたの?」とちょっと恥じらったり(アドリブかな?)。少し枯れた色気が「俺はまだ現役だぜ?」なほどよいムンムンが漂っていい感じ。

クレオパトラに会うまでは武将として人望も力も勝負勘もある、いわゆるいい上司だったキャラ設定が効いている。クレオパトラにチュッチュもするが、部下にも隙あらば顔を寄せて愛情を示す。最後まで部下に愛されてたし、腹心のイノバーバスが裏切ったのを知った時も「しょうがないよな。彼がこの後仕える人をまた裏切らないといい」みたいな事言ったり。イノバーバスも裏切ってもなおアントニーを想っていたり。側近のイアラスはアントニーに殺してくれって言われて、でも殺せないから自分を殺しちゃう。オクタヴィアスも侮ってはいるけど、敬意は表してるのかなって部分もあるし。

そんな情に厚いアントニーだからこそ、恋に溺れて判断力をなくしている。という部分がレイフさんの演技で説得力を持つ。この辺は演出家との信頼関係もうかがえる。

クレオパトラの死の誤報受けた時も、速攻で俺も死ぬ〜ってなるし、殺してもらえないから割腹自殺しようとして死にきれなかったり。最後まで情けなくどうしようもないけど、放っておけない感じが。死にかけのとこは「俺まだ死んでない?死んでない?」のセリフのとこの間合いなのかそれまでの彼の演技のせいか、笑いが起きてしまうくらい。

クレオパトラ役のソフィー・オコネドーはファンキーでパワフルな女帝。男を翻弄する美魔女というより、生きるパワーに満ちた女性。レイフさんのアントニーがとことん情けないので、もーしょうがないね〜って受け止めてる。でも亡くなったアントニーの奥さんや、その後結婚したオクタヴィアにやきもち妬いたり。シンプルに感情表現する情熱的な女。

かといって2人が同じ温度で愛し合ってはいない、という点もちゃんと見えている。アントニーは自分のキャリアと恋の間で迷うが、クレオパトラは最期まで自分の立場を忘れない。誇り高き女王像。

最後の方のクレオパトラとオクタヴィアスの接見のくだりは、クレオパトラが誘惑すれどもオクタヴィアスが鼻にもかけない(クレオパトラは40代で既に若くも美しくもないからという説)というエピソードもあるが、ここではそれはなく。あくまでオクタヴィアスに屈したくないという理由で自死する。

自死する時のヘビ、これほんものだったそう。

ヘビは4匹いて、その中のラリーというヘビはローレンス・オリヴィエにちなんだ名前だそう。

ただヘビがほんもののせいで、クレオパトラは死んでもヘビを離さないし、最後に侍女のチャーミアンが噛まれた後に裏に持っていって戻ってから倒れる。ほっといたらどこ行くか分からないから仕方ないとは思うが。なんとなくその間合いが長くていらんかなと。

 

ここから余談になります。

さい芸でやった時は吉田鋼太郎さん。未見ですがぴったりだなー。共演の女優さんと実生活でも恋に落ちてしまったあたりも、熱演がうかがえる。でもその方と別れた時の「ケンカして拗ねて、かまってもらおうと服のままお風呂に入ってたらその間に出て行かれた」というエピソードがアントニーまんまですね(そっ閉じ)。めんどくさい男だな(褒めてる)!別れた方は賢明だったと思います!(余計なお世話)

ついでに余談といえば、レイフさんも恋多き男。最初の奥さんと離婚した時の話がさもありなんで。離婚後パートナーとなる人と舞台で共演して(ハムレットとガートルード)、恋愛関係になり、ルンルンしながらその当時の奥さんに「僕恋に落ちちゃった〜♡だから離婚して♡」って言ったエピソードが忘れられない。お前はCharaかよ!と今でもツッコミみたい。こいをしーたーそしてうーまれーてー。当時の奥さんはレイフさんがニコニコで近づいてきたから「何かプレゼントでもくれるのかなワクワク」だったらしいので、一気に奈落の底だったでしょうね。彼女の気持ちもきっとCharaだったよね。たいむまーしんはこないー。まあ彼女もその後再婚して幸せになってるそうなのでいいんですけど(またどうでもいいお世話)。

そんなレイフさんが演じるアントニー、いいに決まってるじゃないですか。ねえ。