je suis dans la vie

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「ミッドサマー」はホラーかニューウェーブか?佐藤史生作品への類似性など

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・あらすじ(公式より)

〜家族を不慮の事故で失ったダニーは、大学で民俗学を研究する恋人や友人と共にスウェーデンの奥地で開かれる”90年に一度の祝祭”を訪れる。美しい花々が咲き乱れ、太陽が沈まないその村は、優しい住人が陽気に歌い踊る楽園のように思えた。しかし、次第に不穏な空気が漂い始め、ダニーの心はかき乱されていく。妄想、トラウマ、不安、恐怖……それは想像を絶する悪夢の始まりだった。〜

 

以下感想、ネタバレ含みます。

 

「ヘレディタリー」公開時に見たくて、友達誘おうとしたら断られまくって見なかった。結局ネタバレ感想をネットで漁り、うー絶対好きなタイプの監督だーと思ってた。この前CSでやってたので途中から録画したんだけど、首チョンパのシーンから始まるというね…。

 

今回まともにスクリーンでアリ・アスター監督作をみたわけだけど、グロシーンは私的にはそんなに衝撃はなかった。ウォーキング・デッドで見慣れてるというのもあるけど、監督は先に伏線やフラグをさりげなく分かりやすく見せてるのでショックなシーンも「あー来るな来たな〜」と。ホラー作品の定石を外してはいないので、実は意外性はないように思えた(カップルが最初に狙われる、悪事を働く人から消えていく、ハニートラップなどなど)。

 

映像に関しては画面が独特の動きがあったり、曰くドラッグの幻覚がリアルらしいので、酔いやすい人や苦手な人はやめておいた方がいいかもしれない。

 

ホラー、ミステリ、サスペンス、カルトムービーなどなどジャンル分けするには、一言にまとめられない。これは先日見た「パラサイト」しかり、「Us」しかり。古典映画を踏襲しつつ、新たなジャンルとして確立していっていくのでは。

 

考察サイトはたくさんあり、北欧神話や、キリスト教スウェーデンに入る前の文化がベースとか、女性解放メッセージとか、移民問題とか色々ありますので、観賞した後であれはそういうことか〜と思うの面白い。

 

日本でウケている理由に、いわゆる新興宗教モノとしてとらえられてる側面もあるとか。似たような経験をした、という意見がちらほら。確かに共感・共鳴を強制したり、集団ヒステリーシーンとかそれっぽさがある。

 

私そういえば若い頃にあまり人見知りしないせいなのかわきが甘いのか、新興宗教の集会に騙されてつれてかれた事がたまにあって。あれパターンがあり、何故か「自分のもしくは家庭の不幸を告白しあって理解しあおう!」ってやるんだけど、そんな語れる話ないしそもそも初めて会った人にベラベラ話すのがナンセンスすぎて、だいたいノリについていけなくて白けさせて解放される事が多かった(今思えばそれで正解だった)。みんなそんなに不幸なんだ…あたし幸せなのかな…それだとダメなのかな…ってちょっと悩んだけど(笑)。まあ主人公のダニーはその罠にハマっていくわけですが。

ミッドサマーの感想漁ってるとノレない人は「俺の不幸は俺だけのもの」ってタイプの人が多いので、「根拠のない共感」を不快に思う人にはきつい(本作はその不快感が軸でありテーマの根底にある)。

私の場合、おそらく父親が医学博士(免疫系とかの研究者)なので根本的なとこで「唯物主義」的なとこがあるんですよね。幽霊とかあんま信じてない。

でも精神性を否定してるかってとそんな事なくて。盲信的に信じることが自分はどうしてもできないだけで、信じてる人を否定はしない。

その辺は父親の

「幽霊も妖精も宇宙人もゾンビもいたら楽しいよね!」

という謎理論が基準になってる(しかし父よ、幽霊とゾンビはいない方がいいのでは)。彼にとっては新しい免疫細胞も幽霊も宇宙人も「あったらいいな」なのです。可能性を否定しないところに科学の進歩があると。だから私も「フォースの力」はあると信じたい。

 

閑話休題

 

日本人はオウムの件があるので、特に現代はどうしても新興宗教には不快感があるけど、これって宗教の話じゃなくて土着の民俗学的な見方をした方が正解なんだろうなと思う。

実際ダニーの恋人クリスチャンの専攻は人類学でそこで博士号取ろうとしてるし。

ドラマのTRICKとか横溝正史とかの類似性も指摘されてる。日本の宗教とも呼べない「地方の小さい集落でのまつりごと」にすごく似てる。

前に和歌山のあたりを色々神社巡りした時にも、似たような不思議さを感じたのを思い出しました。

宗教とか神とは〜とか倫理とか精神世界とか、そういうのを具体的にロジカルにまとめることがなかった時代に、人が集り自然と発生した規則みたいなもの。それを今では宗教と呼ぶけど、当時は違った。「かみさま」は今よくいわれる「神」とは違っていたのでは。

日本はアメリカより歴史も長く、ヨーロッパのような大きな宗教戦争もあまりなく、中国のように大規模な宗教排斥も少なく、土着のものが比較的残っているのでこの映画への親和性が高そう。欧米やキリスト教信仰の国との感じ方の違いは大いにありそう。

 

アリ・アスター監督はこれを「失恋映画」って言ってるそうだけど、主人公ダニー以外でもそれを感じたのは、ペレの弟とそのロンドンから来た友達カップルのサイモンとコニーのとこ。

ペレの弟はコニーがサイモンと付き合う前にコニーと「デートしてた」って言うけどコニーは「あれデートじゃない(付き合ってない)」って強く否定する。でペレの弟はちょっと傷ついた様子で「あっ、そうだね、僕ら友達でいることにしたんだよね」ってしつこく言い直すウザい男。

ペレがクリスチャンら男の友人を連れてきたのは、人類学専攻で興味を持ってくれて連れてきやすかったのと、男性だからだと思う。外部からの種馬として。ダニーが来ることになったのは予定外。

その理屈で言うとコニー(女)もいらないんだけど、ペレ弟はコニーに振られた恨みがあったんだろうな〜と。んで女も恋敵も生贄にして、自分も志願して生贄になって心中という何気に一番恐ろしかった(そういやvolunteer という言葉がこんなにしっくりきて、なおかつこんな恐ろしく感じたのは初めてでしたよ…)。

シナリオ的には生贄選ぶ時にそんな私情交えたら「まつりごと」のルールから外れるっぽいからいかんと思うけど、あえてそのエピソード入れたとこに監督の私情を感じました。きっと失恋した彼女にものすごく恨みがあったんでしょうね。

 

個人的に、漫画家の佐藤史生さんの作品にものすごーく似ててわーいとなりました。だから好きなタイプの監督なんだな。

佐藤史生さんの「ネペンティス」とはほぼベースが似てたので、おそらく民俗学によくある話なんだろう(小さい集落が近親交配を避けるために、定期的に外から人を招いてその種をもらうハーレム状態)。ネペンティスの方はSFでラストも全然違うしホラーではないけど。

でも佐藤史生さんの作品はアリ・アスターの作品からグロいホラー性や毒性をアク抜きした感じ。

「阿呆船」にはトリップした幻覚ネタ、「馬祀祭」は儀式、「天界の城」「羅陵王」なんかも神話やら土着信仰、呪術、はたまた種の保存にまつわるあれやこれや。徳永メイさん原案シリーズの「精霊王」「タオピ」「アシラム」などは土着信仰がたくさん出てきて面白い。新進的なフェミニズム描写も出てきて、佐藤史生さんはあの時代にものすごく新しいことをしてたんだとしみじみ。

竹宮惠子さんもいくつかそんな作品も描いており、萩尾望都さんはもう少しヨーロッパ寄りになるけど、その24年組サロンにいた中でも民俗学に特化した作品は佐藤さんが一番多いのでは。

気になった方はぜひ作品を探してみてください(リア友ならお貸しします)。故人なのでいつまで作品が手に入るか分かりませんが、寡作ながら唯一無二の作家だと思う。

 

そんな感じでアリ・アスター作品、私は好きですけど(大好きではない)、ホラーでグロ描写ありだし、なにより終始ディスコミュニケーションの不快感が付き纏うので、うまく気持ちをずらしてその上であえて楽しまないと難しい作品。

なんてったって監督が「見た人みんな不安になるといいな(笑顔)」とかいう人だからねえ。

 

(追記メモ)

・始祖ユミルの神話ベース。「進撃の巨人」で出てくるやつ!

・「進撃の巨人」にも示唆されてるし、エヴァンゲリオン人類補完計画もしかり。人と人の垣根をなくしてすべて一体化して共有する、というのは理想郷なんだろう。そういやエヴァも「巨人」。人類が一体化した時のメタファー?

・殺し方が横溝正史っぽい。「犬神家の一族」ネタとしか思えないのが(足と花飾り)。あれは神話ネタの方が先なのかな?

スウェーデン横溝正史の親和性は「ドラゴンタトゥーの女」にもあり。あれは神話より閉ざされた土地の一族だけど。家族というテーマは宗教的でもある。依存性が似てる。

アリ・アスターの他の作品をいくつか見たけれど、ベッドで眠るシーンが多い。唯一許された安心する時間?でもそれすらも絶対ではない。最終的には死?本作では長い時間続く昼間に悪夢が繰り広げられる。

・実際の夏至祭で飲まれる薬草セント・ジョンズ・ワートのお茶は一時期メンタルケアに効くと流行りましたな。

・食べ物に毛を入れる恋のおまじない♡って、日本でもクッキーやお菓子に自分の髪の毛入れて好きな男の子にあげたら恋が叶う、とか小中学生の時にあった。あれほんとにやった人いんのかな。

・家族、恋愛、宗教、ドラッグ、セックス、ダンス、音楽、リフレイン、支配、規則、習慣、恐怖、絶望、共感、共振、快感や癒し、あらゆる個人的ななおかつコントロール不可能な感情などなど。すべて依存性が高いものたち。

・私の誕生日は6月23日。まさにミッドサマー\( ˆoˆ )/。祝祭!祝祭!やーめでたい。