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ソン・ガンホにアラン・ドロンと同じ闇の眼差しを見た『パラサイト 半地下の家族』感想

アカデミー賞作品賞おめでとうございます。

 

まずは見て、なるほどこれは面白い。物語だけではなく、映画・映像としてできること、楽しめること、エンタテイメントを熟知し、小さくもまとまらず、かといって高い志的なものに惑わされず。楽しめました。

 

考察サイトはたくさんあるので、その辺はそちらにまかせて、個人的に思いついたことを。

ネタバレはあります。

 

昔の作品の盗作騒ぎもあったとか。でも「なりかわり」「のっとり」などの物語はよくあるので、そこを作家がどう表現するかなので、その辺はいまさら?では。

太陽がいっぱい」とか「イヴのすべて」とか。最近だと「Us」なんかも。「ルームメイト(1992年版)」も怖かった。「シャイニング」とかホラーものや、「寄生獣」とか。松本清張なんかも「砂の器」「顔」とか。

 

人の心に巣食う小さい染みみたいのが、どんどん広がって大きな闇になっていくソン・ガンホの演技がよい。

太陽がいっぱい」のアラン・ドロンは容姿がめちゃくちゃ美しいのに育ちが悪くて、自分にないものを持ってる男を殺して成り代わってその女も手にする。

ソン・ガンホは一般的な美形ではない。前田智徳にちょっと似てて九州男児的整いはあるけど。

セレブ奥さんと2人でサウナ室に入って握手するシーン。結局天然奥さんが「手洗ったの?」ってサラッと流されてしまう。あれがアラン・ドロンならじっと見つめて数秒間…だったらパラサイトは不倫ドラマになっていたりして。

かわりにソン・ガンホがじっくり見つめ合う(というか睨み合う)のは男と。セレブ旦那と地下室の男、そして息子。もう1人の自分、なっていたかもしれないもう1人の男に愛と憎しみを抱く演技が素晴らしい。

もう1人の自分、なっていたかもしれない不幸、得ていたかもしれない栄光と金。

犯罪の話だし、セレブ家族はいけすかないし、設定はトンデモなのに惹きつけられるのは、人の心に宿る闇(地下室)を見るから。メタファーや小さなディテールでさりげなく表すのも、観客それぞれに思い当たる部分を引き出す効果があるのでは。

アラン・ドロンも暗い闇のある役が本当によくはまる人だった。映像の場合、目の芝居が上手い人は圧倒的によい。

アラン・ドロンといえば「サムライ」も映像が素晴らしくて、多分ポン・ジュノ監督も見た事があるのでは。あれもスクリーンの大きさにはまるような部屋の撮り方が斬新で、多くの映画に影響を残している。

 

セレブ奥さんの描き方については色々考察が面白い。私が思ったのは、あのセレブ奥さんは前の家庭教師と運転手となんかしらちょろっとあったのでは?という事。

セレブ娘があんなに可愛いのに自己評価が低めなのも、自分の男(前家庭教師)を母親に取られたから。前家庭教師が留学したのはセレブ奥さんから離れるため(娘とは切れたくない)。母が娘に対して塩対応なのは、娘に「女」としてライバル心がある。

前運転手もお尻が軽そうだし、2人とも奥さんが雇ってて顔で選んでるっぽい。セレブ旦那がパンティ見つけた時に奥さんがちょっとだけ挙動不審なのは自分のことかな?とびくっとしたのかも(でも夫に対して強みがあるので追求されない自信もある)。とはいえ彼女は自分のことしか興味がないから、浮気もかなりカジュアルな感じだろうし浅いはず。

彼女だけが地下室の闇がないように見えるが、闇がないという闇がある。

 

でも描いてなかっただけで彼女も闇があるのかもしれない。

 

個人的には、中国駐在中の事を思い出す。

中国駐在中は通勤のために運転手を雇った(会社規則。一部自己負担)。それとアイさんといってお手伝いさんを雇う。ちなみに「アイ」は中国語で「おばさん」と「家政婦」の二つの意味がある。

うちは日本人向けマンションだったのでマンションの規定のサービスを利用した。マンションのメンテナンスも含まれるので、実際それを利用しないと色々面倒だった。

そういうのに慣れてない最初は違和感があったが、夫曰く「中国の大都市は出稼ぎで稼ぎにきてる人が多い。日本人はちゃんとお金を落としていく事がこの国のためにもなる」という経済回せ理論と、あと何があるかわからない国に馴染むためのセキュリティになる、と。実際3年間夫の運転手をしてくれたカーさんは事故もなく、夫を守ってくれ、その後も日本人駐在員のドライバーを問題なくやっているらしい。

夫は割と距離感を意識してて、横柄にも寛容にもなりすぎない感じに接していた。仕事きちんと、でも無理はさせない。病気や家庭の事情で休むのも気楽に、でも必要以上に仲良くはしない。こちらのわがままとあちらの許容度のバランスを見ること。結局あちらの文化を学ぶ、というスタンス。

他の駐在員で中国人に対して露骨な態度の日本人は多くはないがいた。映画の中の匂いのエピソードなんかは最たるもので、窓開けたり消臭剤つけたり。そういう人は態度も横柄なので、そのうち中国人の運転手に嫌われて最終的に誰もその人の運転手になりたがらなかったり。

そういえばカーさんは車内はいつも綺麗にしててくれた。

お手伝いさんもベビーシッターと炊事洗濯料理すべてまかせてしまい、中国駐在中はセレブ生活を満喫してる奥様も多かった。アイさんとうまくやってる方も多かったが、トラブルになる人はだいたいやはり横柄でそういう人は日本人にも評判が悪い。中国語がわかるようになると、アイさんの噂話でどこそこの奥さんは〜っていうのもちょろっと聞いたり。

とはいえそれも期間限定の駐在員だから、映画のようにはこじれなかったのかもしれないけれど。

 

あとこれは漫画の「はみだしっ子」読んでる人しか分からない話。

つれて行ってシリーズのリッチーを思い出した。フランクファーターの弁護ばかりが話題になりがちだが、リッチーが問題児とはいえ事件を起こすまで感情を爆発したのは、マックスや他3人に対して「自分に似た匂い」を感じたのでは。同族嫌悪。

リッチーはもしかしたら4人の中の1人になっていたかもしれない、養子になって裕福な暮らしを手に入れてたかもしれない。

リッチーは4人の出自を知らず、4人を恵まれた家の子として妬む。でも裁判で4人のそれまでの経緯は聞いてるはずなんだけど、おそらくちゃんと理解せず無視している。自分の憎しみがどこから来てるのか客観視もできないし、感覚だけで動いている不幸。

だからマックスや4人はリッチーにどこかで同情している。それにリッチーは気付いてもいる。引導は4人が渡すしかなかった。

数十年前に三原順という漫画家の描いた物語。

 

だから「パラサイト」は実は普遍的な人間のおはなしなんですよ、ってこと。